INTERPRETATION

進化し続ける読書法(その1)

柴原早苗

通訳者のたまごたちへ

 これまでもこのコラムで本や新聞の読み方をお話してきました。私にとって読書や新聞購読は仕事の一部であり、自分の人生を豊かにしてくれる貴重なひとときです。通訳業に携わっていてつくづく思うのは「どれだけ知識を幅広く持っているか」であり、一般教養や様々な話題を吸収する最強の近道は、やはり読書に尽きると思っています。

 このような理由から通訳者になって以来、私は大量の本を買っては読むという行為を繰り返してきました。しかし昨年暮れごろから書籍代がかなりかさむことが気になり始めたのです。そこで今年に入ってからしばらくの間、図書館の本を利用していました。図書館の場合、「返却期限」というプレッシャーがありますので、何としても期間内に読破しようと思うようになります。また、コンピュータで予約する新刊もかなり早く入荷するため、書店で入手するのとあまり変わらずに手に取ることも可能です。こうしたことは私にとってありがたいことでした。一時期は2週間の貸出期間内で10冊以上も借りてはせっせと読んでいたのです。

 ところが仕事が忙しくなってしまい、なかなか本読みに取りかかれない日々が続きました。あっという間に返却期限日となってしまい、しかも人気の本の場合、延長することもできません。泣く泣く返しに行ったものの、自分がオフの日に限って図書館の休館日だったり、わざわざ出かけてみたものの、駐車場が満車で仕方なく引き返すということもありました。

 さらに図書館本の場合、感銘を受けた文章に下線を引くこともできませんし、ページを折ることもできません。私の場合、本の中で面白い個所があるとアンダーラインを引いたりグルグルと囲んだり、あるいは余白に「!」や「?」などの記号や「これって授業で使えるなー」などと独り言を書き込んだりします。ところが図書館の本だとそれがまったくできないのです。せいぜい付箋紙を余白に貼るにとどまるのですが、あとで見返してみても、なぜそこに貼りつけたのか思い出せないこともありました。よってこのような事情から、やはり私には図書館本よりも書店で購入するのが一番合っているなと思うようになったのです。

 かつてイギリスに暮らしていたときも書店が好きでよく出かけていましたが、日本と比べてみると本の価格はかなり高かったように記憶しています。たとえペーパーバックでも日本のように1000円以下で買えるものはあまりありませんでした。著者や著作権の保護という観点から見ればおそらく妥当な価格ではあるのでしょう。けれどもその一方で、雑誌感覚でどんどん読める日本の本の良さも当時感じていました。

 最近は放送通訳の仕事の後、たいてい新宿南口の紀伊国屋書店に立ち寄っています。時間の許す限りじっくりと店内をめぐり、どのような書籍が並んでいるのか眺めるのは私にとって至福のひとときです。順路としては1階から入り、かごを持って興味のある棚を覗きながら上の階へと向かっていきます。紀伊国屋の場合、会計はどのフロアでもできますので、欲しいなと思った本はどんどんかごに入れていけます。そして最上階の洋書フロアで支払いを済ませ、そのままエスカレーターを上り、お隣のタカシマヤへ移動。もし子どもたちのお迎えまで時間があればカフェに立ち寄り、一休みします。購入した本を一冊ずつパラパラとめくったらその中から一冊を選び、その場で読み倒してしまうのです。買った直後に一冊を読破できたというのは大きな達成感をもたらしてくれます。

 毎日あわただしい生活を送る中、通訳業務後のこの数時間は次へのエネルギーを私に与えてくれます。来週と再来週も本についてお話していきます。

 

(2010年8月30日)

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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