INTERPRETATION

「段取り先読み」と「目の前のことに集中する」、このバランス

柴原早苗

通訳者のたまごたちへ

 いよいよ新年度が始まりましたね。新学期、新学年、新たな会社や大学など、緊張感を伴いながらも新鮮な気持ちでいっぱいかと思います。この春を機に、晴れて通訳者デビューを果たした方もいらっしゃることでしょう。ぜひ体を大切にしつつ、充実した新生活を送っていってくださいね。

 さて、今回のテーマは「段取り先読み」と「目の前のことに集中する」、この二つのバランスについてです。早速具体例を見てみましょう。

 たとえば通訳業務を依頼された場合、まずやるべきことは依頼日から業務日までの期間を把握することです。当日まで1カ月あるのか、それとも3日しかないのかによって、やるべきことやそのスピードも変わってくるからです。資料の有無、拘束時間、予習にあてられる時間などもざっととらえてみましょう。

 業務日までひたすら通訳の予習ができれば理想的ですが、そのほかの仕事を抱えていたり、お子さんを育てていたりすれば自分の予習時間もおのずと限られてきます。一日当たりどれぐらい勉強時間に費やせるかを割り出してみてください。その際、突発事態に備えて少し控えめに見積もることが肝心です。なぜなら、めいっぱい勉強スケジュールを組み立てた後に体調不良や予定が崩れてしまった時のリカバリー時間が必要だからです。

 次は「やることリスト」の作成です。単語リスト作成、資料の通読、関連資料の入手・通読、会場までの道のりチェック、出発時間の確認、名刺や筆記用具、辞書などの持参品用意など、やらなければならないことをすべてリストアップしていきます。私はテキストファイルで「通訳業務の段取りリスト」を作成しており、やるべきことをすべて入力してパソコンに保存しています。業務を依頼されたらこのリストを印刷し、ひとつひとつの項目が終了するごとにチェックマークを入れていくのです。こうしておけば、ヌケや漏れを防ぐことができるので重宝しています。

 なぜ最初に段取りを整えるのでしょうか?それは、実際の通訳業務を予習する際に、予習そのものに集中するためなのです。もし、資料を読みながら「あ、会場までの道のりをしらべなきゃ」「名刺も用意しなければ」などと、本来の勉強からそれたことを思いついてしまうと、なかなか予習に集中できません。資料を読んでいたはずなのに、中断してネットで路線検索を始めたところ、つい芸能ニュースも読んでしまったといった寄り道や時間的ロスを防ぐためでもあるのです。

 やるべきことを網羅したら、あとはひたすら目の前のことに集中する。これは日常生活でも応用できます。たとえば料理をする際、最初にすべての食材や調味料を用意して下ごしらえをしてから一気に炒めたり煮込んだりすれば、その都度冷蔵庫を開けたり、調味料を引っぱり出したりといった無駄な動きをせずにすみます。こうした段取りと集中力が、結局は時間の節約につながるのです。ぜひ意識してみてくださいね。

 (2010年4月5日)

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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