INTERPRETATION

大切なマナーベスト10

柴原早苗

通訳者のたまごたちへ

 日本経済新聞というと、つい経済メインで硬い新聞なのではと思われがちです。私自身、読み始めたのは社会人になってからですが、当初は経済用語のほとんどを理解できず、読み進める上で非常に難しいという印象を抱いていました。それでもあきらめずに「誌面をめくるだけでも良し」と自分に言い聞かせることで、何とか毎日続けられてきたように思います。

 ここ数年の日経新聞は、若い読者にも親しみやすい誌面構成となっています。私のお気に入りは毎週土曜日に別刷りで織り込まれている「日経PLUS1」。カラー刷りで、お取り寄せに関するランキングがあったり、アンケート結果の分析レポートや家電の価格比較なども掲載されたりしています。中でも毎回欠かさず読んでいるのが、「実践マナー塾」。社会人として必要なマナーやルールが毎週取り上げられており、意外と見落としていたマナーを学ぶことができます。

 さて、私は通訳現場で20年ほど仕事をしてきましたが、その間、通訳学校講師や先輩方からいくつか大切なマナーを教えていただきました。そこで今回はマナーベスト10をご紹介しましょう。

1.イスは机の下に戻す

 意外と忘れがちなのがイスの置き方です。ちょっと席をはずすだけでも、イスが出しっぱなしでは通路が狭くなりますし、歩く人がぶつかる恐れがあります。立ったら必ずイスを戻す習慣をつけましょう。

2.紙や新聞は静かにめくる

 たとえばブース内でパートナーが通訳をしている間、紙をバッサバッサとめくってしまえばパートナーは通訳に集中できません。最近のマイクは性能が良いので、マイクが紙の音を拾わないためにも、静かにめくると良いでしょう。

3.咳やくしゃみの音

 自分の咳やくしゃみの音は意外と気づかないものです。しかし他人が耳にすると自分が思う以上に大きい音を出しているかもしれません。これからは花粉症の季節。くしゃみの音への配慮も大切です。

4.サイトラのボールペン音

 ブース内で資料をサイトラする際、ボールペンが紙に当たる音が気になるというケースもあります。筆記用具はボールペンだけでなく、鉛筆も備えておくと安心です。

5.会場内は静かに歩く

 私の場合、かなり速足なのでつい足音も大きくなってしまいがちなのですが、やはりドスドスと音を立てるよりは静かに歩いた方が無難です。

6.パソコンキーのタッチ音

 こちらも上記5同様、配慮があるとうれしいものです。私自身、知らず知らずに気合を入れてガンガン叩いているので、反省の日々です。

7.突発事態にもあわてない

 通訳現場では直前になって大量の資料を渡されたり、放送通訳現場では突然画面が真っ暗になったりと、予期せぬ事態が発生することもあります。そのようなときもあわてずにいることが肝心です。

8.初めての通訳現場には1時間前に到着

 最近はラッシュアワー時に電車が遅れることがよく起きます。そのような際、あわてないためにも現場には余裕を持って到着することが大切です。特に初めての場所であれば、1時間前に着く気持ちで移動すると良いでしょう。

9.終了報告は忘れずに

 長い一日の業務が終了すると、ホッとしてつい終了報告を忘れてしまいがちです。依頼主(エージェントなど)への終了報告は、業務終了直後に行いましょう。

10.常に感謝の気持ちを

通訳の仕事というのは、たくさんの人々が関わることで成り立っています。業務を依頼するクライアント、間に入るエージェント、会場設営を行う裏方さんなど、多くの方々の存在があって初めて、私たちはこの仕事に携われるのです。「仕事をさせていただく」という感謝の気持ち。これはとても大切なことと言えます。

 ここでご紹介したマナーは、通訳者だけでなく、どのような仕事にも当てはまると思います。私自身、改善すべき点を意識しながら、歩んでいきたいと考えています。

 (2010年3月22日)

Written by

記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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