INTERPRETATION

走れなくなったら嫌じゃない?

柴原早苗

通訳者のたまごたちへ

 ハーフマラソン出場を念頭に置き、今年元旦から続けてきた早朝ジョギング。当初は「2009年の一年間で100回は毎朝走る」を目標にしていましたが、いつの間にか走ることが日常生活の一部となり、走らないとかえって違和感を覚えるほどに、私の毎日にとって欠かせないものとなりました。

 心理学では21回続けることができれば、ほぼ習慣化することができると言われています。私の場合、まずは三日坊主を避けるべく、3回は続けることを短期目標にし、その後「1週間」「10日」「2週間」と少しずつ伸ばしてきました。ただ続けるだけでは身が持たないとも考え、ところどころで自分へのごほうびを盛り込むなど、モチベーションが下がらないようなイベントも工夫しました。時間管理に関する本やビジネス書で「モチベーション」というタイトルが付いた本なども大いに参考になっています。

 こうして続けた結果、走ることそのものに楽しみを覚えるようになりました。朝、太陽を浴びながら季節の移り変わりを肌で感じたり、お気に入りのポッドキャストで情報収集したりもしました。また、お散歩中のかわいいワンちゃんたちの姿を見ることも、走る上で励みとなりました。まもなく一年がたとうとする今、走ることを通じて健康と幸せを得られたのは、本当にありがたいことだと思っています。

しかし、喜びや勢いだけで物事が続くとは限りません。私の場合、何と生まれて初めて「ひざの痛み」に見舞われてしまったのです。よく新聞の見出しで「○○選手、ひざを手術」「ひざの故障で欠場」といったものをこれまでも見てきました。けれども自分自身が体験したことがなかっただけに、あまりピンとこない状態だったのです。今、私の左ひざは、動きによってピキーンとした痛みが走ります。まるでひざに爆弾を抱えているような感じです。

せっかく習慣化したジョギングを突然休むことには抵抗があります。体力が落ちたらどうしよう、体重が増えたらどうしよう(!)など、いろいろな思いが頭をかすめます。そのような中、フルマラソンに出場した友人がこんな言葉をかけてくれました。

「私もひざを痛めたことがあるけれど、その時は思い切って休んだよ。だって走れなくなったら嫌じゃない?」

この一言で私は迷いから吹っ切れることができました。そうなのです、これからもずっと走りたいからこそ、勇気を持って休むことも大事なのですよね。

これはおそらく英語学習でも言えると思います。「毎日がんばって続けてきたのに忙しくて机に向かえない」「だんだん日々の課題がこなせなくなってきた」というとき、私たちはつい焦ってしまいます。けれども、それが永遠に続くわけではないのです。いつかまた元通りになる日が来る。その日のためにも、焦りは禁物です。休まざるをえない日は思い切って休む。そしてまた取り組めるときが来たら集中して取り組んでいけばよいのです。

今回、ひざの痛みが大切なことを私に教えてくれたように思います。

 (2009年12月21日)

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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