INTERPRETATION

ハーフマラソン、完走しました!

柴原早苗

通訳者のたまごたちへ

 11月23日、私は生れてはじめてのハーフマラソンに参加しました。昨年、同じ大会で3キロ部門を走り、今年春には別のレースで5キロマラソンに挑戦。大会に出るのはこれで3度目です。好天に恵まれたこともあり、タイムは2時間8分6秒。「まずは完走すること」をめざしていた私にとって、本当にうれしい結果となりました。そこで今回は、マラソンのトレーニングと英語学習のポイントを関連付けてお話しします。

1.コツコツと続けること

 私が本格的にトレーニングを始めたのは今年の1月からです。最初は連続で5分も走れませんでしたが、毎日少しずつ走る距離を伸ばすことによって、心肺機能がアップしていきました。同時にスポーツクラブで筋トレも行い、バテない体力をめざしたのです。今回のレース前半ではゆっくりと自己ペースを維持して体力を温存して走りましたが、中盤以降、少しずつピッチを上げて、最後の3キロはほぼ全速をめざしてゴールしました。

 有酸素運動と筋トレ。これは英語学習で言うならば、「多読」と「文法・語彙力強化」の関係に似ています。どちらか片方ばかりやっていても、本当の力をつけることはできません。シャドーイングだけ、あるいは単語暗記だけといった偏った学習では実力的にアンバランスになってしまいます。たとえ苦手でもまんべんなく勉強をすることが求められます。そのためにもやはり毎日コツコツと続けることが大切なのです。

2.信念を持つこと

 私の場合、レース本番まで実に11か月間ありました。最初のうちは走ることに慣れておらず、しんどいなあと思う日もあったのですが、次第に「走る」という行為に慣れて来ると楽しくなってきました。副次的効果として体重が落ちてくれたこともあり、毎朝のジョギングが私にとって貴重な時間と変わっていったのです。

 しかし、やはりスランプはありました。一番こたえたのはレース直前に体調を崩してしまったことです。思うように体は動かず、ストレスはたまるばかり。さらに「ハーフの距離を事前にリハーサルしていない」ということも私にとってはプレッシャーとなりました。

 英語学習でも似たような状況があるでしょう。たとえば「英語を勉強しよう!」と思い立った当初は、勉強そのものが楽しい時期です。しかしそのうちに、「どんなに単語をがんばって覚えてもすぐ忘れてしまう」「本当に身に付いているのだろうか」といった悩みがクローズアップされてしまいます。これがいわゆる「学習停滞期」です。ましてや資格試験などを目標にしてきた場合、このスランプは本当に辛いものです。

 このようなとき、人間というのはついネガティブ思考で堂々めぐりになりがちです。けれども自分で自分をいじめたところで解決することはできません。むしろ大切なのは、それまでの自分の蓄積を振り返り、自分の進歩を大いに認めることだと思います。そして「自分には必ずできる!」という信念を持ち、再び歩んでいくことなのです。

 先日、日経新聞の夕刊でプロ車いすテニス選手の国枝慎吾さんが、「試合に調子のピークを持って行くのがプロとして当たり前のことだと思っている」と述べていました。私自身、今回ハーフマラソンの本番直前で体調を崩してしまったことから、体調管理に関してはいろいろと反省している点があります。ただただトレーニングばかりに焦点を当てるのではなく、あえて休養をとって自分の体をいたわり、本番に備えてベストなコンディションを作っていくのも大切な要素だと感じています。

 英語学習でも通訳業務でも同じです。どんなにたくさん勉強したところで、当日に力が発揮できなければせっかくの努力が水の泡と化してしまいます。バランスを常に考えていくことこそ、最善の結果にいたるはずです。

 (2009年11月30日)

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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