INTERPRETATION

まだまだ続く、時間術への探求

柴原早苗

通訳者のたまごたちへ

 私は大学生のころ、国際ジャーナリスト・千葉敦子さんの著作に初めて接し、それ以来、いかにして時間を有効に使うか自分なりに探り続けてきました。当時はまだ「時間を効率的に使う」あるいは「時間術」「手帳術」といった概念が今ほど盛んではなく、まだまだ世の中がゆったり動いていた時代です。とはいえ、私自身は英語学習に少しでも多く時間を費やしたい、会社業務の傍ら、留学に向けた勉強をしたいと考えており、何とか時間を捻出する必要がありました。隙間時間をどこで見つけ出すか、作業をどのようにしてシンプルに進めるかを常に考えていたのです。

 ここ数年、手帳や時間そのものへの関心がグッと高まり、書店には関連書籍が多数並ぶようになりました。インターネット全盛期となり、人々はいつでもどこでも情報を手に入れられるようになった反面、時間に追われるようにもなったのです。それだけに、人々は専門家の説く時間の有効的使い方を仰ぐようになったのでしょう。

 私にとって時間活用に欠かせないアイテムは手帳とタイマーです。とりわけタイマーは集中力をアップさせる上で不可欠となっています。通訳学校の授業準備をする際、一定時間をセットしてその間に教材を一通り見たり、授業の組み立てを考えたりします。一方、放送通訳業務がある日は自宅を出る前に新聞やネットでニュースを追いかけますが、その際にも時間を計りながら集中して読んでいます。他にもメールの送受信やネット検索、原稿執筆などもなるべく時間内に収めるべく、タイマーを活用している次第です。

 かつて私はこうした作業を15分単位でやっていました。つまり一つの作業につき、15分間でやり遂げるという目標を立てていたのです。なぜ15分かというと、おそらくそれが同時通訳の交代時間の目安として使われる、いわゆる「集中可能時間」という認識が私の中にあったからかもしれません。

 しかし、その一方で15分間というのは実にあっという間に過ぎてしまい、タイマーがなるたびにストップボタンを押し、結局リセットせずにそのままズルズルと作業を続けるということが度重なっていたのです。たとえば「今日は15分でメールの送受信をする」と思っていたものの、タイマーを消したあともズルズルと書き続け、そのまま延長でネットサーフィンをしてしまい、気がついたら1時間以上たっていた、といった寄り道が頻繁に見られるようになってしまったのです。

 これでは何のためのタイマー活用かわかりません。そこで先週から思い切って15分ではなく、45分単位で作業をするようにしてみました。45分という時間を選んだのは、たまたま先日見た息子の小学校授業参観の際、1レッスンが45分だったことから来ています。

 次にやったことは、一日を「45分+15分=60分」という単位で動かすようにしたことです。今までのように「メール15分」と決める代わりに、「メールやネットでの調べ物を45分」と大まかにくくるようにしてみました。そうしたところ、タイマーを頻繁にセットしたり止めたり、あるいはアラーム音で思考を中断されたりせずに済むようになったのです。おかげで落ち着いて作業に集中することができました。

 45分間の仕事が終了したら、次の15分間は仕事以外にあてています。自宅で作業をしている日は、この15分間に夕食の下ごしらえをしたり、掃除機をかけたりするなど家事全般にあてます。パソコンの前から離れて体を少しでも動かすことになるので、良い気分転換にもなり、次の45分間にまた集中できるようになったと感じています。

 私にとって時間の使い方はライフステージによって変化してきており、今後もまた変わることは大いに考えられます。大事なのは、一つのやり方でやってみて改善の余地ありと思ったら、新しい方法を取り入れること。どうやら今後も時間術への探求は続きそうです。 

(2009年10月12日)

Written by

記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

END