INTERPRETATION

やっぱり大事 語彙と数字と文法力

柴原早苗

通訳者のたまごたちへ

 フランス語学習も4週目に入りました。何とかここまで続けることができたのも、「新しい語学を学びたい」という知識欲と、「6月の仏検5級に合格したい」という達成欲ゆえかもしれません。学問というのは本来であればもっと聖なるものなのかもしれませんが、こうした欲求をうまく駆使しながら学ぶことも、大事なモチベーションだと私は思っています。

 さて、NHKラジオのフランス語講座の他に私が毎日続けていること。それはNHK国際放送のフランス語ニュースをポッドキャストで聞くことです。番組を登録しているので毎日自動的にダウンロードされ、一日2回配信されるフランス語ニュースを聞いています。幸い私は放送通訳が本業のため、日頃から仕事の場において、また、新聞を読むことなどを通じて、時事問題には触れています。おかげで国際ニュースであれば、何となく内容をつかめる状況にあります。

 実は語学学習を行う上で大事なのは、こうした「自分にとって身近なものを教材に選ぶこと」だと思います。私の場合、フランス語旅行会話のCDも持っていますが、そちらは聞いてもさっぱりわかりません。しかし、ニュースであれば「北朝鮮の話題かな」「ソマリア沖の海賊の話だろう」といった大まかなメドはつきます。フランス語単語一つ一つを理解することはできませんが、大きな文章の流れの中で、キーワードとなる言葉が出て来るとそこだけが浮かび上がってくるのです。その浮かび上がった単語だけを頭の中でつなげて、どういう話題かを推測しています。これは通訳訓練で言うところの「リプロダクション」という、概要をつかむ練習に近いと思います。

 私の場合、もし文法の初歩の初歩からいきなり始めたり、旅行会話のテキストから始めたりしていた場合、ここまで長続き(と言ってもまだ3週目ですが)しなかったと思います。本業も忙しく、家のことも山のようにたまっているため、おそらく最初の数日間で挫折していたはずです。けれども「全部理解できなくても、好きな話題から勉強する」という、いわば好奇心ベースで学習することを心掛けているおかげで、何とかついていけているとも言えます。

 とは言うものの、ポッドキャストを聞きながらいつも痛感することがあります。それは「語彙」「数字」そして「文法力」です。鳥瞰図的に概要がつかめても、個々の単語がわからなければ文章をしっかりと理解することはできません。フランス語には英語と近い単語があるものの、それには限りがあり、やはり自分で新しい単語をどんどん増やさなければ、理解へは結びつかないのです。

 もうひとつは数字。特にフランス語の場合、数字の数え方が独特であるため、その法則を理解し、早口の数字読み上げも書きとれるようにしなければいけないでしょう。さらに、「万」「億」といった数字の単位もすぐに日本語で理解できなければいけません。語学習得に当たり、数字の練習は避けて通れないと改めて感じています。

 最後に文法力。フィーリングで文法の力をつけることは決してできません。やはり一度体系的にしっかりと文法を勉強することが、正しい文章理解へとつながります。先日読んだ月刊「ふらんす」4月号に明治大学の清岡智比古先生が「文法書一気読み」を勧めていらっしゃいました。理解度は5割で良いから、文法書を数日で読み切るという方法です。これは私にとって目から鱗でした。そう、文法項目すべてを今の段階で理解する必要はないのです。でも、大まかな内容をざっとつかむことはとても大切ですよね。

 最近、会う人会う人に「フランス語を始めた」と公言しています。そうすることで自分をあえて追い込み、学習を継続させようと考えているからです。勉強は苦行ではありません。でも、適度な緊張感は必要と思いながら続けているところです。

 最後に。どなたか体系的なフランス語の文法書をご存知の方、教えていただけませんか?感じとしては、英語の「ロイヤル英文法」(旺文社)のような項目量と索引、使いやすさなどを希望しています。

 (2009年4月20日)

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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