INTERPRETATION

小さな目標を立てる

柴原早苗

通訳者のたまごたちへ

 2009年がいよいよ始まりました。昨年はサブプライムローン問題をきっかけに、世界的な規模の景気低迷に見舞われました。私はポンド建ての定期預金を数年前から続けているのですが、年末に届いた明細書を見て驚きました。何と一年前と比べて大幅に元本割れしていたのです。円高が進んだこと、さらに、イギリスの利下げが直接響いたためでした。一瞬、ケタを間違えたのかと思ったほどでしたが、これもいわば学習費用。「分散投資しているのだから、これで良し」と思いなおし、そのままにしています。

 さて、みなさんは何か今年の目標を立てましたか?私は例年であれば、「○○冊読む!」と言った具合に読書量の目標を立てていました。昨年は確か200冊ぐらいに設定したと記憶しています。年の初めのころは読書ノートをつけ、通し番号を付けて記入していたのです。ところが、そのうちノートをつける時間がなくなったこと、いちいち通し番号を記すのが面倒になったことなどから、ノートそのものをつけることをやめてしまいました。生活パターンが変わったり、自分の費やせる時間が変動したりすると、目標も軌道修正しなければならないのでしょう。

 そこで今年はこのように考えることにしました。「小さな目標を立てて、着実に継続する」というものです。生きていく上で、確かに大きな目標は必要でしょう。現に巷にあふれるビジネス書を読めば、「まずは長期目標を立て、それを中期および短期に落とし込んで実行すべし」といったことが述べられています。けれども最近思うのは、本当に大きな大きな目標を抱いている人というのは、世間のごく限られた人であり、大半の人々は日々コツコツと仕事に従事しているのではないか、ということなのです。大きな目標はないけれど、毎日をしっかりと充実した形で生きていきたい、という人の方が多いように私には思えます。

 大目標がまだ見つからない人に「大きい目標を立てよ」と言っても、それは難しいことかもしれません。そうであれば、あえて大目標をひねり出すよりも、毎日幸せに生きていく上で、自分はどのようなスタンスで日々暮らしていけばよいのかを考えた方がいいと私は思います。そのために必要なのが、「小さいけれども確実に続けられる目標」ということになります。

 私は昨年、3キロマラソンに出場しました。中学校の頃、クラスメートと集団でマラソン大会をサボったほど長距離走は苦手であり、大人になってからも5分走れば息切れという状態が続いていました。けれども、3キロという自分なりの妥協点を見出した上で出場したところ、走ることの爽快さにすっかり魅了されたのです。もちろん、だからと言ってすぐに42.195キロ走れるほどにはなっていませんが、12月に入ってからは少しずつ走行時間を延ばしています。最初は5分、そのあと10分、12分と長くして、最近は28分まで走れるようになりました。

 というわけで、今年、私は「毎朝わずかな時間でも良いから走る」ということを目標にしました。寒い朝、外に出るには勇気がいります。けれどもi PodにBBCのポッドキャストをいろいろとダウンロードして、お気に入りの番組を聞きながら走り続けるつもりです。具体的には、「今日は10分しか走れないかな」というときは10分番組を、「30分は行けそう」という日には30分の番組を聞きながら走ります。小さな目標ではありますが、モチベーションアップの道具をそろえて、ゆるやかに続けながら2009年を健やかに過ごしたいと思っています。

(2009年1月5日)

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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