尊敬する人3名(つづき)
先週は、尊敬する女性3名を挙げてみました。そこで今週は男性バージョンをお届けしましょう。
まずはラトビア出身の指揮者、マリス・ヤンソンス氏。11月にオランダのロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団とともに来日し、素晴らしい公演をしてくれました。私がヤンソンス氏の演奏に初めて出会ったのは、1994年の留学当時。修士論文の執筆がはかどらず、なかば逃避のような形で私はロンドンのコンサートホールに入り浸っていました。その時、ロンドン・フィルでモーツアルトを振ったのがヤンソンス氏だったのです。それまでもコンサートに出かけたことは何度もありました。けれども、あそこまで美しい振りを見せる指揮者にはお目にかかったことがなかったのです。私は一目でその指揮に魅了されました。プロフィールやインタビューなどを読むと、非常に勉強家であり、礼儀正しく、楽団員やファンを大切にしていることもわかりました。通訳者として、職業人としてのあり方をヤンソンス氏から学んでいます。
二人目は同じく指揮者の佐渡裕氏。この春からテレビ朝日の「題名のない音楽会」で司会を務めています。佐渡氏は故バーンスタイン氏の最後の弟子であり、若い人たちの音楽教育にも力を入れています。「音楽夢大陸」というDVDが出ているのですが、それを見ると、いかにわかりやすく、そして楽しく音楽のことを説明しているかが伝わってきます。指導者になるには、まずは自分自身が教えている内容を理解し、愛していなければ、相手には伝わりません。佐渡氏の姿を通じて、私自身、どのようにして教えるべきかを考えているところです。
三人目は明治大学の齋藤孝先生。「声に出して読みたい日本語」「三色ボールペン情報活用術」などをはじめ、ゲーテやニーチェの作品論を展開するなど、その活躍は多岐にわたります。私は齋藤先生の論理的な考え方や、授業の進め方などに大いに共感を抱いています。中でも生徒をやる気にさせるための数々の工夫や、日本語そのものを大切に思う心など、実に参考になります。これから通訳者デビューをしようとしている私の教え子たちに、どのようにして通訳の世界を伝えていけるか、日本語や幅広い知識を得るためにはどうすればよいか。齋藤先生の著作から得たことを精一杯伝えていきたいと思っています。
この3人には共通点があります。「音」や「言葉」を大切にしていること、相手にメッセージを伝えようと努力していること、そして自分が喜びを覚える部分に周囲を巻き込んでいることです。こうした素晴らしい方々を見ていると、私自身、通訳や指導というものに終わりはなく、まだまだたくさん努力していけるのだなと感じます。現状に甘んじることなく、少しずつ進歩していきたいと思っています。
(2008年12月1日)
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