ニガテ分野をどうするか?
通訳の仕事を続けていると、実に多様な分野の仕事を請け負います。会議通訳であれば、医学、バイオテクノロジー、経済、財務会計から芸術、スポーツまで、ありとあらゆる内容の仕事が舞い込むチャンスがあるのです。私がメインに携わっている放送通訳も同様です。会議通訳と異なり、事前に関連資料が配布されるわけではありませんので、日頃から新聞を読み、あらゆる分野に興味のアンテナを張り巡らせていくことが、訳の質につながります。
自分の得意分野の場合、エージェントからの業務アサイン後もそれほど苦痛ではないでしょう。資料の読みこみから関連文献の読破まで、準備作業も楽しいはずです。日頃から興味のあることですから、予習時間も苦になりません。「へー、そうなんだ!」「今はこういう新しい情報になっているのか!」と喜びを覚えながら進めていくはずです。
しかし、苦手分野を依頼された場合、私たち通訳者はどうすればよいのでしょうか?選択肢は3つあります。
(1)未知の分野を習得するチャンスと前向きにとらえて請け負う
(2)断ってしまうと、次に仕事が来ない恐れがあるので、仕方なく請け負う
(3)自分の力不足で迷惑がかかってはいけないと思い、断る
私の場合、常に自分のスケジュールと難易度、そして資料の有無などから判断し、なるべく(1)か(3)をとるようにしています。というのも、デビューしたての頃は(2)の基準で選ぶことが多く、後ろ向きな取り組み方だったがゆえに散々な出来になってしまったという苦い経験があるからです。そこで、私なりに「苦手分野への取り組み方」を考えてみました。
まず大事なのは、どんなに心の底で「この分野、嫌い〜!苦手〜!!わからな〜い!!!」と思っていたとしても、とりあえず、「ほほお、こういう世界もあるのね」「へー、面白い!」と声にだしながら資料を読み込みます。これは半ば自己暗示ですが、意外と効果があります。おそらく自分でポジティブなメッセージを口にし、それを自分の耳から聞くことによって、何となく前向きな気分になれるからかも知れません。
二つ目は、とにかくやさしい資料にあたることです。医学も財務会計も法律分野も、素人には日本語自体が難しく書かれています。それにいきなり立ち向かうのではなく、思いっきりレベルを下げてみるのです。私の場合、まずは子ども向け図鑑や「Yahoo!きっず」などのサイトで調べてから、少しずつ難易度を上げていきます。大事なのは、レベルを下げることにちゅうちょしないことだと思います。
次は、覚えた事柄を家族などに説明してみることです。「ねーねー、今度○○に関する通訳をやるんだけど、△△で□□っていう技術があるんだって。おもしろいねー」という具合です。こうして一度アウトプットをすることで、知識の定着を図ることができます。我が家の場合、小学校1年生の息子に時々説明してみることがあります。わからない人に、どれだけわかるように説明できるかも通訳者として大事な作業ではないかなと個人的に思うからです。
業界のハイシーズンは11月に入ってもまだまだ続きます。皆さんもぜひ、ちょっとした工夫で苦手意識を克服してくださいね。
(2008年11月3日)
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