INTERPRETATION

学習教材の選び方

柴原早苗

通訳者のたまごたちへ

 通訳学校などで教え始めて数年が経ちました。毎学期、生徒さんから必ず出る質問があります。

 「先生、どんな教材で勉強したらいいですか?」

 「やっぱり英字新聞やTIMEでないとダメですか?」

 「どの音声をシャドウィングしたらいいでしょう?」

 今の時代、書店に行けば英語学習関連の書籍だけで、一つの棚が占められています。そのような大量の教材を目の前にしてしまうと、いったいどれを選んだら良いのかわからなくなってしまいますよね。そこで今回は教材の選び方についてみてみましょう。

 私がお勧めするのは以下の3つです。

 (1)学校に通っているのであれば、授業で使う教材を徹底活用

 せっかく時間とお金を費やして学校に通っているのですから、まずは目の前の教材をフル活用しましょう。通訳学校であれば、スクリプトと音声を授業中に配布されるでしょうから、それをどんどん使いこなしてください。一度はベタ訳を徹底的に書き出してみる、文法的にあいまいな部分は文法書と辞書を使って品詞分解してみる、音声はi Podに入れて、何度も聴き続ける、といった使い方です。訳や構文が不明であれば、ぜひ講師に尋ねてみましょう。

 (2)教材のレベルを堂々と落としてみる

 私が授業で「教材のレベルを落としてみましょう」と言うと、たいていの生徒さんは驚きます。「英字新聞が難しいなら、Student Timesなどのような易しい週刊英字新聞はどうですか?あるいは中学校で使った教科書の音読も効果的ですよ」と言うと、教室の中は「でも・・・」という空気が流れます。「中学校から10年以上も英語の勉強を続けてきた。レベルの高い通訳学校の門をたたいたのに、いまさら教材のレベルを落とすなんて」と非常に抵抗するのですね。

 でも、自分にとって難しすぎる教材で「あれもわからない、これも聞き取れなかった。自分は英語がやっぱりできない」となるよりは、「何これ?易しすぎる!!」と思えるほうが、次のステップへ移りやすいのです。つまり、いきなり難しい教材にお金を払うよりも、簡単なものに費やして「できた!」という達成感を味わったほうが、継続しやすくなります。

 (3)自分の興味を最優先させる

 通訳の仕事を依頼された場合、その業務内容が自分の得意分野であれば予習も楽しくなります。しかしいつもそうとは限らないのがフリーランス通訳者の宿命。「私は文系なのに、こんな理系の内容は気が遠くなりそう」という業務を割り当てられることも、もちろんあります。それでも単語帳を作り、関連文献を読み、配布された資料を頭に叩き込むということをやらなければなりません。

 けれども、純粋に自分のための勉強なのであれば、もっと自分の関心を優先させてもよいと私は思います。たとえば世界情勢が好きなのであれば、新聞やテレビの英語ニュースは格好の教材となります。映画が好きなのであれば、どんどん映画館に足を運ぶとよいでしょう。洋楽が好きならば、i PodやCDで好きな曲を聴き、歌詞に耳を傾けるということもできます。料理が趣味という人は、海外のレシピ本を見て献立を作るということも可能です。

 大事なのは、「英語の勉強をしなければ」という強迫観念で動くのではなく、「自分が知りたいという情報を得るため、たまたま英語を媒体にして入手した」としていくことです。

 夏の暑さが去り、秋はまさに勉強の季節。みなさんもぜひ、ご自分に合った教材や勉強法で楽しく学んでいってください。

(2008年10月6日)

Written by

記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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