INTERPRETATION

必要最低限なものとは?

柴原早苗

通訳者のたまごたちへ

 8月初めに家族でキャンプへ出かけてきました。子どもたちにとっては生まれて初めてのテント生活です。私の方は会社員時代に同僚らに連れて行ってもらったことがあります。でもテント設営や食事の準備など、キャンプ好きの友人がすべてやってくれたので、私はほとんどおんぶにだっこ状態だったのです。一方、今回は主催者はいるものの、基本的にはお互いに手伝ったり、共同で食事の準備をしたりしたので、私自身、大いに勉強になりました。

 準備品については事前にもらっていたパンフレットでそろえることができたのですが、何分こちらはキャンプに関しては素人。「あれも必要だろうな、これもいるかな」とあれこれカバンにつめこみ、荷物はかなりの量になりました。

 ところが実際、現地入りしてみると、持ってきたものの半分は特になくてもよかったものだったのです。その反面、あれば便利だったなと思われるものが色々とありました。たとえばクーラーボックス。これは隣の参加者を見て思ったのですが、クーラーボックスは机代わりにもなるのですね。ほかにも荷造り用のひも(洗濯物干しに使えます)や懐中電灯つきラジオなども、我が家にもあったので持っていけばよかったなと思いました。

 キャンプ期間中はちょうど猛暑続き。場所は秩父だったので、都心より多少気温は低かったものの、湿気で体は常に汗でベタベタでした。でもその状態にも次第に慣れていき、一日の終わりに近くの鉱泉で薬草の湯につかるのは最大のご褒美に思えたものです。

 考えてみれば、最近の私たちは毎日の生活の中で「何かを我慢する」という経験が減りつつあるのではないでしょうか。たとえば全身汗まみれになる前にクーラーのある場所へ逃げ込む、おなかがちょっと空いたなと思えばコンビニでお菓子を買う、眠いなと思ったら少し仮眠するなどということができます。

 しかしキャンプ場ではそうした「飢え・暑さ・眠気」に襲われても、すぐに解消することはできないのです。おなかが空いていても、みんなで協力して準備をしなければ、食事にありつくことはできません。しかも50人近くの参加者ですから、かなり前から食事の準備をする必要があります。朝食を作り終わって一段落したら、すぐに昼食の下ごしらえ開始という感じだったのです。

 今回参加してみて、みんなで協力することや、モノがなくても自分たちで工夫することの大切さを学びました。さらに人間というのは食べるものと寝るところ、そして汗を流せるところが最小限あれば、それで十分幸せになれるとも思いました。

 文明社会に暮らしていると、私たちはつい清潔さや快適さを求めてしまいがちです。でも、一度そういうところから自らを切り離す経験をすることも、生活を見直す上で大切なのだろうなと今回のキャンプで思いました。

(2008年8月11日)

Written by

記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

END