バランスのとれた見方とは
私がBBCで働いていた時、編集方針として徹底的にたたきこまれたことがあります。それは「物事には二通りの見方がある」ということでした。
たとえばイスラエルとパレスチナの対立を見てみましょう。イスラエルはパレスチナの武装勢力による攻撃で、被害を受けています。ガザ地区やヨルダン川西岸地域からロケット弾が撃ち込まれ、イスラエルの入植者たちが命を落としているのです。女性や子どもを含む民間人がこれまで多数、亡くなりました。イスラエルから見ればそうした武装勢力はテロリストであり、許しがたい行為と言えます。
しかし、パレスチナからすると、独立は彼らにとって永年の悲願です。これまでも独立をめぐり、激しい戦いが続いてきました。中東和平に向けた会談が何度も持たれているものの、依然として独立は実現していません。いつまでたっても自分たちの国ができないため、住民の中には武力に訴えるしか方法はないと感じる人も出ているのです。自爆攻撃のように命を犠牲にしてでも独立を求めるという方法もとられています。つまり、パレスチナ系住民にとって武装勢力はテロではなく、「自由への戦士」でもあるのです。
BBCのニュースは、一つの事件を取り上げる際、当局の関係者にインタビューすることがよくあります。その際、片方の話を聞いたらなるべく同じニュース時間内でもう一方の主張を聞くという編集方針をとっています。つまり、両者からの意見を取り上げることで、報道内容そのもののバランスをとるのです。どちらが正しくてどちらが間違っているかをニュースキャスターが口にすることはありません。その代わりに、当事者たちに発言の機会を与えることで、あとは視聴者自身が物事を判断できるようにしているのです。
BBCは創立以来、このようにして公正中立な報道を続けています。特派員のレポートひとつをとってみても、一方的な伝達はしていません。彼らはセンセーショナルな口調に陥ることもなく、淡々と原稿を読み上げています。たとえば環境問題の報道でも、3分間のレポートの中に必ず賛成派と反対派のインタビューを盛り込んでいるのです。私自身、こうしたニュースを同時通訳する機会に恵まれ、物事には必ず二通りの見方があることに気付かされました。
真実には二通りの見方があること。これは普段の生活にもあてはめられます。どんなに世間が良しと言っていることであっても、もしかしたら疑問に思うべき点が残されているのではないでしょうか。みんながみんな、「○○が良い!」と言っていたとしても、その背後にはもしかしたら企業や組織の大きな思惑が隠されているかもしれません。
私たちはついついマスコミの主張を信じてしまいがちです。もちろんマスコミ自体、事実を報道することが信条であることに変わりはありません。しかし、やみくもに報道内容をうのみにするのではなく、私たち自身の頭で何が正しくて何が真実なのか、考えることも大事だと思っています。
(2008年6月23日)
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