INTERPRETATION

実力アップのための一工夫

柴原早苗

通訳者のたまごたちへ

 先日、息子の学校公開日に行ってきました。授業参観日は保護者のみを対象としていますが、学校公開日は、地域の住民向け。どの授業を見学してもよく、地元の人々にとっては学校が今、どのような状態なのかを知る絶好の機会です。

 我が家の息子は4月に小学校1年生になったばかり。4月中旬の授業参観ではまだ学校にも慣れていない子どもたちが多かったせいか、「授業」と言うよりは、むしろ「親子による交流活動」が中心でした。しかし今回は国語と算数の2つの授業が行われ、子どもたちが勉強する姿を見学しました。普段は私自身が教える立場にありますが、今回は子どもの親として授業を見学したのです。そして学び方においていくつかのことを感じました。

 授業全般からわかったこと。それは、「ちょっとした工夫をすれば実力も上がる」ということでした。

 まず、「自分で応用してみること」。今回、子どもたちは授業で新しいひらがなを学んでいました。先生が正しい書き順や読み方をおっしゃった際、子どもたちの中には「あ、これは妹の名前で使うよ!」「○○の言葉と一緒だね」とつぶやく子どもたちがいたのです。つまり、大事なのはただ単に「あ、新しい内容だな」と受け身になるだけではなく、それを自分の既存の知識とどうやって関連付けるかということになります。

 もう一つは、読み方を聞いた際、すぐに自分で声に出す子がいたことです。これは語学学習においてもっとも大切なことです。なぜなら「耳で聞いただけで理解する」のと、「自分で発音して理解する」ことには大きな差があるからです。目や耳でその言葉を知っているだけでなく、実際に口にすることで初めて、コミュニケーション能力は養成できます。聞いたらすぐ声に出してみる。これはほんのひと手間ですが、これも積み重ねれば実力アップにつながります。

 さらに大切なこと。それは「言われなくてもやってみる」ことです。たとえば、算数の授業でのこと。教科書に書き込む作業があり、終わった子どもたちは教卓のところまで行き、先生に添削していただいていました。早く終わった子どもは全員が終了するまで特に課題もありません。しかし、子どもたちの多くはおしゃべりもせず、きちんと教科書を開いて座っていたのです。中には教科書をじっくり読んでいる子どももいました。たとえ意識的に復習していたのではないにせよ、今やったところをもう一度見直すという作業は、潜在的に内容を脳にインプットすることになります。これは知識の再確認と定着において大切な作業です。

 私たちは今、とても忙しい時代に生きています。まとまった勉強時間を確保するのも簡単ではありません。しかし、今、目の前のチャンスを有効に活用し、それを活かしていくことが、結果的には一番大きい結果をもたらすと思うのです。今回、授業を見学することにより、今、置かれた中で集中すること、そして自分なりのちょっとしたひと工夫を重ねることこそ、勉強を続ける上では本当に大事なのだなと私はあらためて感じました。

(2008年6月2日)

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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