INTERPRETATION

大切な英文法

柴原早苗

通訳者のたまごたちへ

 今月から高等学校で英語を教えるようになりました。

 通訳業をしばらく続けていると、瞬時に英文を把握する、つまり、話者が何を言いたいのかを素早くとらえることに焦点が行くようになります。これは仕事上に必要な英文資料を読む時はもちろんのこと、英字新聞や雑誌などに目を通す時も同様です。つまり、通訳者というのは、一字一句の細かい点にとらわれてしまうと、訳を言い始めることができません。むしろ、全体像をどれだけ迅速につかめるか、それをどのようにしてわかりやすい日本語に置き換えられるかが大事になるわけです。たとえわからない単語があっても、それにこだわりすぎてしまうと、時間はどんどんたってしまいます。その間、お客様をお待たせしてはならないため、理解した範囲で訳していくわけです。

 このような「言語操作活動」を長いこと続けてきたので、「わからない部分はとばして、とにかく早く概要をとらえる」ということが私自身のプライオリティーになってきました。

 しかし、学校での英語は違います。特に高校の授業は英語の基礎力を養成する過程でもあるのです。しかも今回私が受け持つのは、何と英文法と英作文!授業名こそ「オーラル・コミュニケーション」ですが、そうした応用力に必要な文法と作文力を養っていく、ということが最重要課題です。

 開講前、テキストや資料を手渡された私は、早速目を通してみました。するとはるか昔にやった「5文型」「不定詞」「自動詞」「他動詞」といった文法用語が網羅されています。正直、「うわ〜!!」と思いました。と言うのも、個人的に文法用語はニガテ。これまでの私は「とにもかくにも何とか英語を読み解ければそれでいいはず!」と、文法の勉強から逃げてきたからです。

 しかし、仕事として高校生を教える以上、そうも言ってはいられません。早速ねじり鉢巻きで読み進めることにしました。

 最初のうちは、過去の自分の文法知識を掘り起こしながらの作業が続きました。教科書に載っている例文も、「今」の「通訳現場」では使われないかもしれません。「私はその本を私の母にあげました」という直訳も会議通訳ではしないでしょう。あまりにもぎこちない訳だからです。ふつうは「本を母にあげました」で十分通じます。しかし、読んでいくにつれて、英文解釈や文法がパズル解きのように面白く思えてきたのです。

 教科書をざっと見渡してみると、確かに難しい文法用語は出てきます。その一方で、出ている例文や解説は実にコンパクトにまとまっています。つまり、高校で使う教科書の例文を徹底的に暗記し、練習問題をしっかりやり、間違った箇所もできるまで繰り返し行っていけば、英語の基礎力は十分身に着くのです。

 大人になってしまうと「今さら高校の英文法?」と思えるかもしれません。しかし逆の見方をすれば、中学高校の英文法さえしっかり押さえておけば、人間の体でいう所の「基礎体力」は必ずつくことになります。

 今回、新たな指導先に恵まれたことで、私自身、英文法を生徒たちと一緒に学んでいきたいと思っているところです。

(2008年4月21日)

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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