INTERPRETATION

地名に注意

木内 裕也

オリンピック通訳

中国の地名が日本語の発音と英語の発音で大きく違い、通訳中に工場やオフィスの場所の話になって苦労する、というのはよくある話。新型コロナウイルスで話題になった「武漢」もWuhanですが、1年半前にどれだけの人がすぐに「武漢=Wuhan」と言えたでしょうか。

オリンピックの開催地であれば、すでに色々と話題になっていますし、この先予定されている開催地も特に難しい地名はありません。例えば「北京」と「Beijing」は一般的に馴染みがありますね。しかし、発音に惑わされる地名もいくつかあります。

発音が全く違うのは、例えばアテネとAthens。ギリシャ語の発音だと、両者の真ん中をとったような発音になります。日本語の「ア」、英語のTH、そして「ナ」をつなげたような発音。この様に、日本語と英語だけではなく、現地の発音にも気をつける必要がある場合も。ミュンヘンがMunichとなるのは、よく知られているでしょう。ドイツ語の発音は、日本語の「ミュンヘン」に似ていますね。

モントリオールはどうでしょうか? Montrealと英語で発音する場合、日本語とは余り違わない発音です。しかしモントリオールはカナダでもフランス語圏。すると、発音もフランス語の発音になることがあります。「モンレアル」のような響きになるので注意が必要です。

冬季五輪は夏季五輪よりも依然として注目度がやや低くなる点からも、地名に惑わされることが多いかもしれません。最近では、2006年に行われたトリノオリンピックがあります。イタリア語でもTorino。発音は「トリーノ」です。英語ではTurin。「テューリン」のような発音です。次のサッカーワールドカップの開催地でもある「カタール」も、英語の発音と現地での発音には差があります。

英語スピーカーの中でも、地名を英語の発音で呼ぶのが良いのか、それとも現地の発音を尊重すべきなのかという議論がよくなされています。日本語でも同じですね。「ヴェニス」というのか、「ヴェネチア」とするのか。「フローレンス」と「フィレンツェ」も同じです。最近では、なるべく地元の呼び方で呼んだほうがいい、という流れもあります。通訳者としては、このような地名には基本的にそれぞれの団体で決められた公式名がありますから、それを確認するのが良いでしょう。

ただ、通訳ボランティアなどで街中でガイドをする場合、注意が必要です。例えば「市役所前」というバス停で降りてください、と伝える時に、City Hall Entranceと伝えるでしょうか? それともShiyakusho-maeとするでしょうか? バス停にはなんと書いてあるでしょうか? バス車内の放送は何でしょうか? 市役所前にある交差点の信号機につけられた看板はどうでしょうか? わかりやすく訳した時に、それが逆に混乱を招くこともあります。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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