INTERPRETATION

ファーストネームに注意

木内 裕也

オリンピック通訳

一般的にスポーツ選手の名前は、日本人の選手であっても、外国人の選手であっても、苗字が使われます。もちろん、一部の選手はニックネームやファーストネームで知られていたり、ユニホームに示されていたりしますが、それは一部の選手。また、監督などの指導者についても、苗字を使って○○監督、のように呼ぶのが一般的です。

TVなどのインタビューでは同じ様に苗字が使われることも多いですが、選手間の会話や、監督仲間の会話となると、状況は変わります。例えば、ある競技の有名な監督が一同に介して会議を行い、その会話を日本語に訳すとなったら、どうでしょうか? 監督同士は昔から知った仲。ファーストネームで呼び合い始めるでしょう。

皆さん、ご自身が好きなスポーツで有名な指導者や監督を10人くらい思い浮かべてください。それぞれの人のファーストネームを知っているでしょうか? ファーストネームだけ言われた場合、すぐにラストネームが思い浮かぶでしょうか? 例えば海外ではよく知られていても、日本ではTV放送があまり無いなどの理由でそれほど知られていない監督や選手もいます。日本でそれほどよく知られていない競技もあります。そんな競技の場合、ラストネームだけでもきちんと聞き取るのに苦労するかもしれません。

私もスポーツ指導者や分析家の会議で通訳をすることがあります。そんな時には、どんなに有名な監督であっても、ファーストネームで呼び合っています。これらの監督にとっては、お互いが同僚も同然。ある意味、当たり前の行動です。しかし、通訳をする身にとっては大変です。ファーストネームをそのまま言ってしまっては、聞いている人にどれだけ伝わるでしょうか? もちろん、スピーカーがファーストネームしか言わないのが悪い、と言ってしまえばそれまで。しかし、少しでも余裕があれば、ファーストネームしか言われなくても、日本の聴衆がわかるようなラストネームに置き換えて訳出したいものです。

そのために、私は単語帳とは別に人名一覧を必ず用意します。そこにはファーストネームだけではなく、よく使われるニックネームも書いてあります。どちらが出てきても、ラストネームに繋げられるようにします。また、チーム名や国の名前も書いておくことによって、少しでも聞いている人にわかりやすいラストネームに到達できるようにしています。「XXXXの監督である、ジョン」と言った場合、ジョンだけだとすぐに誰かわからないこともありますが、チーム名がわかれば、探しやすくなるでしょう。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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