INTERPRETATION

単語帳づくり

木内 裕也

オリンピック通訳

どの通訳案件でも、依頼を頂いて行うべき事前準備の1つに単語帳づくりがあげられます。単語帳はそれぞれの通訳者なりの作り方があり、全てを手書きで行う人もいれば、きれいにパソコンで作る人も。様々な色を使い分けてある単語帳もあれば、黒ペン一色のものも。また、小さなバインダー方式にしている人もいますし、クリップ留にしている人もいます。見た目こそ色々ですが、単語帳にはそれぞれの通訳者の経験に基づいたコツが隠されています。今回は、スポーツの通訳を依頼された時に私であればどんなことを考えながら単語帳を作るか、ご紹介します。

スポーツ通訳と言っても色々。ある特定の競技の担当になった場合を想定します。そうすると、IOC以下、どのような組織が関わっているのかという関係性と、それぞれの組織の定訳が必要です。サッカーであればIOCやJOCというオリンピックの流れと、FIFA(国際サッカー連盟)以下、大陸連盟や各国協会があります。日本であれば、AFCというアジアの括りがありますし、JFA(日本サッカー協会)もあります。それぞれの組織のトップに立つ人々の名前も大切。会長や副会長などの名前がどこで出てくるかわかりません。特にVIPの通訳を依頼される可能性があればなおさら。

オリンピックなどの大会であれば、試合会場の名前(日本語であれば特に苦労がないでしょうが、中国の都市名などは苦労します)や競技場の名前も大切です。競技場には複数の名前がついていることがあります。

可能であれば、参加しているすべての選手やスタッフの名前も抑えておきたいところ。これは単語帳とは別にしておくと良いかもしれません。単語帳に情報を入れすぎると、実際の現場で単語が見つからなくて使えない、ということもあります。また、選手名鑑などが本屋で簡単に手に入りますので、それを利用したほうが下調べに使う時間を減らすことができるでしょう。

慣れない競技であれば、その競技に関する用語をきちんと抑えておく必要があります。「サッカー 日英 単語」などのキーワードで検索すると、意外と役に立つサイトが見つかります。翻訳者に関するあるプロジェクトでは、ベテランの翻訳者ほど、新人の翻訳者よりリサーチに時間を掛けるという結果が出ていました。新人の翻訳者は訳語が見つかるとそれに満足してしまうものの、ベテランの翻訳者はその単語で本当に正しいか、追加のチェックをするということ。通訳者も同じように見つけた訳の正しさを確認することが大切です。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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