INTERPRETATION

遠隔通訳

木内 裕也

オリンピック通訳

コロナウイルスの影響で、今年の春の通訳業務は多くが遠隔になりました。Zoomを使ったり、それに似たソフトを使っての通訳を初めて経験した、という人も多かったのではないでしょうか? もしくは、電話の声を頼りに通訳をした、ということもあったかもしれません。

スポーツの通訳というと、会場に行って選手や関係者の横で通訳をしたり、記者会見場で通訳をするイメージがあるかもしれません。もしくはTV局内のブースで放送通訳の仕事をすることもあるでしょう。実際、現場での通訳は数多くありますが、実は遠隔通訳も多くあるのです。

オリンピックのような国際大会になると、一部の言語については通訳者が日本国内に多くいない場合もあります。日常会話はできても通訳はできないということもありますし、場合によっては世界中を見回しても、非常にマイナーな言語が必要になることも。そんなときには遠隔でリレー通訳をすることになります。

例えば国内の競技場の中にある会議室で記者会見が行われるとします。その音声を一度海外にいる通訳者に飛ばします。その通訳者がある外国語を英語に訳し、それを競技場の会議室にいる通訳者が聞いて、日本語にするというパターン。何も知らずに会見を見ていると、「この通訳者はこんなマイナーな言語も訳せるんだ」と思うかもしれません。まさか、会見の音声が一度海外の通訳者によって英語に訳されていることに気づかないことも多いでしょう。

また、大きな大会では公式記者会見などを行う通訳者を1箇所にまとめることもあります。それによって、複数の会場に多くの通訳者を派遣する必要がなくなり、時間が重ならなければ、複数会場の通訳を担当することが可能になります。通訳者にとっては色々な競技の通訳をすることになりますので非常に大変です。しかし組織委員会としては、移動や宿泊のコストを抑えられますし、雇用する通訳者の人数も抑えることができます。

私もスポーツにおける遠隔の通訳を経験しました。多くのみなさんも、今年は遠隔通訳を経験した年になったかもしれません。やはりその場にいて仕事をするほうがやりやすいと感じますが、このようなシステムにも対応できる能力が必要になります。

また、遠隔通訳では機材の担当者にも負担がかかります。もしも回線がどこかで切れてしまった場合、問題が同じ会議室の中で発生しているとは限りません。インターネット回線の異常なのか、会議場の異常なのか、それとも通訳者がいるメディアセンターの異常なのか。こんな複雑なシステムにも対応する心構えが大切です。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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