会場で迷子
国際会議場の同時通訳ブースの中には、たどり着くまでに迷ってしまいそうな場所にあるものも少なくありません。機械室の近くにブースの入り口がある場合だけではなく、「男子トイレ」と書かれた表示の先にある細い廊下を通った先にブースのドアがある、という会場もありました。「同時通訳ブース」と誘導の看板が出ている会議場は少ないですから、行先をきちんと覚えておかないと、迷子になりかねません。このように、会場で迷子になってしまいそうになることは、スポーツの通訳でも少なくありません。
例えば競技会場で一般の観客に対応する通訳業務であれば、アクセスもしやすいでしょう。ビジネスの席で参加者と一緒に行動をして会議室で通訳をする場合など、基本的には正面玄関からビルに入り、通常の動線を使って会場に向かいます。しかしメディア対応であったり、メディカルの通訳であったりすれば、一般の観客の動線から外れますので、表示が沢山あるわけでもありませんし、同じ部屋に向かう人の数も限られてしまします。スポーツファンでよく試合会場の競技場などに行く、という人であっても、スタジアムの内部に行くことは少ないのではないでしょうか。スタジアムには多くの会議室や会見室、設備室、貴賓室などがあります。通訳業務はそのような部屋で頻繁に発生します。ファンとして何度も足を運んだ会場であっても、業務でアクセスするスペースは全く違ったものです。
また、これらの裏方のスペースの多くには多くの仕切りがあります。つまり、行きたい部屋と自分が今いる部屋がたった20メートルしか離れていなくても、1度他の階に行ってから出ないとたどり着けない、ということも少なくありません。また、行先が目に見えていても、自分の持っているIDカードではアクセスできないゾーンが間に存在していて、遠回りをしなければいけないこともあります。
私も通訳をするために向かった会場で迷子になる、という経験を何度かしました。貴賓室で通訳をすることになり、エージェントのコーディネーターの方に貴賓室の入り口まで連れて行っていただきました。無事に業務が終わって控室に戻ろうとしたところ、帰り道の記憶があやふやなことに気づきました。「確か階段を上ってきたような……」「救急隊員の控室の前を通ったような……」という何となくの記憶をたどってみたところ、気づいたら一般の観客席の入り口に出てしまいました。あきらめてコーディネーターの方に電話をして迎えに来て頂いて、無事に控室に戻ることができました。
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