INTERPRETATION

遅刻

木内 裕也

オリンピック通訳

あるスポーツの国際大会で通訳をした時の話を紹介します。私はあるエージェントから試合当日の記者会見における通訳を依頼されました。試合会場に出向いての通訳案件です。私にとっては、試合開始前に会場に向かい、試合を観戦し、試合後に行われる記者会見で通訳をして(トータルで30分もありません)、業務終了という案件です。しかし担当されているエージェントのコーディネーターの方にとってはそうではありません。国際大会ですから、医務室に1名、全く別の通訳者が手配されています。そして、観客の入場ゲートには8名の通訳者が手配されていました。

入場ゲートの通訳者は、エージェントが持つ通訳スクールに通っている人々。入場ゲートで発生する通訳業務というのは、現実的に難しい内容はありませんし、少し間違えても大きな問題にはなりません。そうすると、プロを雇うのではなく、スクール生にお願いする、というのがよくあるパターンです。語学ボランティアよりは少し待遇は良いでしょうが、公式の通訳者とは全く違う扱いです。

今回、なぜこの話をするかと言うと、隙間時間にコーディネーターと話をする機会があったからです。当日は4名の通訳者(2言語なので、1言語2名)が記者会見用に手配され、前述の通り1名の通訳者が医務室に手配されていました。この5名のフリーランス通訳者に加え、8名のスクール生です。コーディネーターの方がおっしゃったのは、「スクール生、遅刻してくることが珍しくないんです」ということ。もちろん、交通機関の遅れなど、遅刻がやむを得ないこともあります。しかし、特に理由ない遅刻がスクール生の間で多いとのことでした。そして連絡を取ろうとしても連絡がつかず、最終的には「携帯電話を自宅に忘れてきました」との答えとか。

業務の行われる当時の会場において会話をしたので、遅刻の頻度と能力の相関性があるかなど、細かい点まで話はしませんでした。大手のエージェントとなれば、通訳者のアサイメントをする担当者と、現場のコーディネーターは違います。しかし内部で密な連絡が取られているのはもちろんです。プロとしては正当な理由のない遅刻はあり得ません。訳質の以前の話です。しかし現実的には、遅刻であったり、連絡の欠如であったりということが多いようです。

スポーツイベントは、スクール生であっても活動の機会が与えられる場です。その様な場で、当たり前のことをきちんとこなすことが、実は非常に大切である、ということを感じる機会でした。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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