INTERPRETATION

VIPの敬称

木内 裕也

オリンピック通訳

通訳学校で一生懸命に覚えたけれど、なかなか現場で使うことがない単語というのもあります。ただ、通訳者としては10年に1度でも使うべき時に思い出せなければ大きな失態となるわけで、一生懸命に単語や表現を丸暗記します。ある意味で、学校で学ぶけれど、なかなか使うことのない表現に、皇族に関する表現があります。

日本だけではなく、各国の国王を含め、His/Her Imperial Highnessなどという表現を何となく覚えた記憶はある、ということもあるかもしれません。しかし現実のところ、通訳学校を卒業してすぐに皇族や国王の通訳をすることはあまりないでしょう。多くの場合は、「社長」がPresidentなのか、CEOなのか、日本式企業の構造と、欧米式企業の構造に悩むくらいで、皇族の敬称に悩むことはありません。

しかしスポーツの場となればそれは違います。各国の首脳や皇族、国王の会談に呼ばれることのない通訳者であっても、スポーツのイベントに動員され、そこで偶然それらの人々の通訳をすることはあり得ます。特にスポーツに関心のある皇族の方々は少なくなりません。各国首脳や国王も、自国のスポーツにはとても関心があります。そうすると、そのような人々が試合の観戦に来ることは充分に考えられます。

スポーツの通訳となると、なかなか皇族や国王、各国首脳の敬称にまで気が回らないかもしれません。大統領なのか、首相なのかも大きな違いです。Prime MinisterとChancellorにも大きな違いがあります。これらは丸暗記するしかありませんが、間違えてしまうと非常に失礼に当たります。

例えば日本の皇族の敬称であれば、宮内庁の日本語サイトと英語サイトを比較してみるとよいでしょう。何かのセレモニーで通訳をすることがある場合には、念のために関連する国の皇族や首脳についての事前勉強をしておくことをお勧めします。また、その国にいる日本の大使、その国から日本に来ている大使の名前も頻出です。これらの個人名を知らないのは通訳だけ、ということがあり得ますから、十分な勉強が必要です。最近逝去した(元)首脳(特にスポーツ好きの)の名前なども出てくることがありますから、事前勉強は本当に大切です。

またスポーツ会場や記者会見で通訳をする際には、ビジネスカジュアルの服装でOKなことが多いです。実際にテレビに出る場合は別かもしれませんが、公式記者会見などはブース内での仕事ですから、それほど服装を気にすることはありません。しかし重要なセレモニーとなれば、正装です。もしも1週間出張でスポーツイベントで通訳をする、という場合には、念のために1セットは正装を用意しておくとよいでしょう。突然エージェントの人から、「すみません。明日はスーツでお願いします!」とメールが来ることもあるので。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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