INTERPRETATION

大会開始後の勉強

木内 裕也

オリンピック通訳

多くの通訳は、1日の案件です。今日はIT、明日は金融、明後日は医療機器、という生活の続く通訳者にとって、1日で終わる案件と2日以上続く案件を比べた場合、前者の方が多いのではないでしょうか? 2日以上に続く案件であっても、基本的には同じ内容の仕事であって、事前勉強をきちんとしてその場に向かうと、改めてゼロに近い段階から事前勉強を毎晩しなければいけない、ということは少ないです。もちろん、会議に出てから学んだ単語や表現、そして事実を復習するのは欠かせません。どの案件でも毎日単語帳は膨らむものです。しかしスポーツの通訳をする場合、場合によっては会議通訳よりも大量の復習を連日に渡って行う必要が発生します。

その理由は、日々行われる試合の結果が、翌日の通訳内容を左右するから。例えばAチームの記者会見を出張先で通訳するとします。自宅でAチームの状況や、次の対戦相手について事前勉強し、万全に備えて前泊地に移動するとします。ホテルについてひと段落、というタイミングで、すでに他のチームが試合をしていることは充分に考えられます。すると、それらの試合結果が、翌日の記者会見で問われる質問の内容を大きく左右します。Aチームは試合こそしていないものの、通訳者としてはその他のチームの試合の状況を知っていなければなりません。また、大会中も練習はしています。その間に怪我をする選手もいますし、怪我が悪化する選手もいます。このように、例えAチームの通訳を依頼されていても、その他のチームの様子を十分に把握しておく必要があります。

時には1日に3試合~5試合が行われることもありますから、全試合を自らTV観戦することは不可能です。そんな時には、ハイライト情報が詳しいスポーツニュースサイトをいくつか覚えておくといいでしょう。「このスポーツ新聞のサイトは、比較的細かい試合情報が出ている」と知っていれば、見ることのできなかった試合であっても、ある程度試合の流れを知ることができます。

また、大きな大会であれば大会が公式アプリを作っていることもあるでしょう。それを情報源とすることもできます。特に試合後のスタッツ(統計)やチームの最新のニュースはそれらのアプリ上に素早く更新されます。試合後の記者会見などで通訳をする場合には、試合中にアプリをチェックして、正しい試合スタッツを把握しておくことも必要でしょう。

大きな大会となると、毎日色々なイベントや試合が行われています。それらをすべて把握することは困難。ですから、一般のファンやメディアが何に興味を持つか、自分が担当するチームにとっての大きなニュースは何か、を中心に情報を効果的に求めることが大切です。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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