数字
通訳をしていて簡単そうで難しいのが数字。これはスポーツの通訳でも同じです。しかし、スポーツの通訳に特徴的な難しさもあります。
ビジネスの通訳を考えてみてください。多くの場合、企業や団体の収益の話となれば、百万円単位は切り捨てて話をすることがあります。収益の議論をする中で、例え資料に細かい数字が書いてあったとしても、わざわざ「842,105,679円」まで細かく言及されることは少ないです。逆に「昨年の収益が8億4200万円」程度の話になるでしょう。もちろん、会議によっては部品の単価の話になって、1円単位の話をすることもありますが。
スポーツの世界では、細かい数字をきちんと把握することが良く求められます。マラソンで「3時間5分を下回る」と言う発言を、「約3時間」と訳してしまったらどうでしょうか? 公式のマラソンレースで3時間を下回った人はいませんから、この曖昧な訳には前人未到の領域がそこに含まれるとともに、オリンピックのメダル圏外のタイムも含まれることになります。
野球でも3割の打率を超えることは素晴らしいとされていますが、決して「約3割」ではないですね。
数年前に、私が通訳を聞く立場にいた時のことです。サッカーの競技規則に関するセミナーでした。サッカーではフリーキックが行われる際に、守備側の選手はボールから9.15メートル以上離れなければいけません。審判が壁をボールから遠ざけたり、最近ではVanishing sprayと呼ばれる数分経つと自然に消える特殊なスプレーでフィールド上に線を引いて、そこまで守備側選手を遠ざけるのを見たことがあるかもしれません。この距離が9.15メートル。そのセミナーでは特に資料が手元にあったわけではありませんが、「9.15」という数字はサッカーの審判員の間ではあまりに知られているもの。慣れない通訳者が「9.1メートル」と訳したり、「9メートル」と訳したりしていました。聞いていて、非常に違和感がありました。たった5センチの違いかもしれませんが、「9.15」は頭の中に叩き込まれている数字。私以外の参加者も、同様のコメントをしていました。これは円周率を「3.14」で教え込まれている人が、突然「3」や「3.1」で計算させられているようなものかもしれません。マクロの視点から見れば大きな問題ではないのですが、非常に違和感があります。
ただ、ある程度このあたりの数字は事前勉強でカバーできます。オリンピッククラスの選手のタイム、飛距離、スコアは何なのか。最近行われた主要な大会の結果、また開催年は何か。世界記録のタイムなどは何か。この辺りは事前に調べておいて、資料として見やすい場所に置いておくと、ミスが少なくなるかもしれません。
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