意外と知らない落とし穴
「オリンピックで通訳」と言っても、その仕事は様々です。IOCやJOCの通訳をしたり、選手や監督の記者会見などを担当する通訳者は一部。多くの通訳者は、オリンピックを接待の場に使う企業のお客さんの通訳をしたり、スポーツ団体の関係者のアテンドなどを担当します。また、ボランティア通訳として駅や空港、もしくは観光地で活動をする人も多いでしょう。
このように接待やアテンドをする時に思わぬ落とし穴となるのが、「当たり前の単語」です。例えばお寿司のネタを考えてみてください。英語で言えるでしょうか? 医療機器メーカーの難しいセミナーを控えていれば、色々と専門用語を勉強するでしょう。背景知識に関する書籍も何冊か購入するかもしれません。しかし、もしもセミナーの後のディナーでも通訳をすることになり、出てきた夕食に「フキノトウ」があったとします。日本の代表者が外国の人に「フキノトウは食べたことがありますか?」と聞いた場合、どう通訳するでしょうか?
アテンドをすると食事の場でも通訳をすることが多くあります。外国のお客様を食事に連れて行くとなると、やはりお寿司や天ぷらは多いです。また割烹に行くこともあるかもしれません。そんな時に「かんぱち」「のどぐろ」を訳せるでしょうか? 「マグロ」と「サーモン」しか食べないお客さんだけとは限りません。「穴子」の英訳がわからず、とりあえず見た目が似ているからEelと訳したら、後でウナギが出てきて困った、ということにもなりかねません(随分昔の苦い思い出です)。
また、気の利いた通訳者としては、「訳せばそれでよい」という訳でもありません。TunaやSalmon、またMackerelなら訳を聞いた外国人にも馴染みがあるはず。しかし前出の「フキノトウ」をbutterbur scapeと訳しても、理解してもらえないことの方が多いでしょう。最近では日本でも「チコリ」という名前で流通している野菜もありますが、海外では当たり前のように使われていても日本では馴染みのない野菜は多いです。そんな時に、名前を教えてもらえるのは嬉しいのですが、それにちょっと追加の情報があると嬉しいもの。「山菜です」「春の野菜です」など一言あるだけで随分と違います。これ位の情報を付け加えることが喜ばれる通訳の状況もあります。その状況判断をするだけでもある程度の経験が必要ではありますが、お客様に喜ばれる通訳に繋がるかもしれません。
落とし穴になるのは食べ物だけではありません。お寺に見学に行った時、「木魚」は訳せるでしょうか? ある政治家の通訳をした時に突然星占いの話になって苦労した、という通訳者の話を聞いたこともあります。星占いの星座はきちんと把握しておきたいですね。
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