第2次救命トレーニング
先日、American Heart Associationの行うACLS(Advanced Cadiovascular Life Support;第2次救命)トレーニングに参加してきました。医師だけではなく、アメリカの病院のICUで働く看護師や救急救命士にも義務付けられているトレーニングで、2年に1度更新講習が求められています。CPRやAEDを使った心肺蘇生を学ぶ第1次救命(BLS)と比較して知識や技術の面で高いレベルが求められるのがACLSです。16人の参加者のうち看護師などICUとERで働く医療従事者が15人でした(残りの1人は私です)。
当日の講習は朝8時から夜6時まで行われました。午前中は講義です。3-lead EKGと呼ばれる心電図を見て患者の心臓が抱えている問題を把握することと、12-lead EKGを見て心筋梗塞が心臓のどこで発生しているかの見当をつけることに焦点が当てられました。また数年前に日本でも話題になった気管挿管などAdvanced Airwayに関する講義も行われました。気管へのチューブはET tubeと呼ばれていますが、ACLSではその重要性がかなり低くなっているとのこと。アメリカからかなり遅れて救命士に挿管を認めさせた日本では比較的新しいテクニックのようですが、アメリカではその重要性がかなり失われています。その背景には体内の血流を促進することに焦点がかなり当てられていることにあるようです。2005年のガイドラインの変更で、CPRの際に15回の胸部圧迫から30回の胸部圧迫をするように指示が変わりました。またAEDに関してもこれまで3度の電気ショックを与えてからCPRを再開したのに対し、1度の電気ショックの後に2分間のCPRに変更されました。これは1度目の電気ショックでかなりの成功率があるのに加え(2回目、3回目で成功する可能性は低い)、とにかく脳に血液(酸素)を送ることが生存率につながるという研究結果が出ているためです。従ってET tubeを数秒間ですんなりと入れることができるのでない限り、わざわざCPRを停止してまでET tubeを入れる必要が無いと判断されるようになりました。Respiration Therapistと呼ばれる人がERやICUにはいて、1日に何十回と挿管しています。その人たちが到着した段階で挿管すればよい、ということが強調されていました(とはいってもマネキンで挿管をさせられましたが)。
午後は実技の試験。いくつもの試験がありましたが、特に重要なのは現場と同じような環境の中で約10分間にわたって蘇生を試みるメガコードと呼ばれる試験です。試験官の作り出した状況の中でメガコードのチームリーダーとして、ACLSチームをまとめて患者の手当てをしなければなりません。私の場合は除脈を発見したBLSチームから患者を引き継ぐケースでした。酸素を与え、点滴を行い、心電図の指示をそれぞれ合計3人に行います。患者の心電図は第3度房室ブロックの波形でした(試験官が波形をコンピューターで操作するので、実際にモニター上に波形が示されます)。通常の除脈の場合はAtropineと呼ばれる薬を0.5ミリグラム投与しますが、第3度房室ブロックではPacerといって100Jの電気ショックを与えます。2分間のCPRを指示し、それが終わると波形は心房細動(VF)になっていました。360Jで除細動を指示し、CPRを行いながらEpinephrineを1mg投与。それでもVFなのでCPRを再開しAmiodaroneを1mg投与。その後もVFなのでCPRとEpinephrineを繰り返しました。すると心電図に波形は戻ったものの、脈は無くPEAという状況に。PEAは電気ショックを使えませんので、Epinephrine、CPR、そして今度はAtropineを1mg行いました。PEAの原因を探り、メガコード1つ目の試験終了。自分が採点されているときには指示を出すだけです。そうでないときにはチームメンバーとして、採点されているリーダーの指示に従って処置をしなければなりません。そのほか直流心房細動、心室頻脈などのケースがありました。状況も最初はERやICU、病院内での心停止でしたが、試験官も途中で飽きてきたようで、「スターバックスの熱いコーヒーを持った途端に心停止で火傷も負っている(心停止の患者についてはちょっとした火傷は後回しです)」とか、「フットボールの試合観戦中にビールを飲んでいたら心肺停止」など。シナリオも豊かになっていました(大量のビールを飲んでいる場合、気管挿管で誤って食道に挿管していてもガスが排出されるので、実際に肺の音を聞いたりしないと本当に気管に挿管されているか分からない、というきちんとした理由がありましたが)。
長い1日でしたが無事にACLSの更新を行いました。次の更新は2011年の夏か秋です。
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