Anti-Intellectualism
数回にわたって大学の様子を書いていますが、ミシガン州立大学だけではなく、アメリカ社会全体を特徴付ける現象として、Anti-Intellectualismと呼ばれるものがあります。IntellectualismというのはIntellectという言葉が入っていることからも分かるとおり、知識や学問を重要視する姿勢で、それにAnti-という接頭語がついたAnti-Intellectualismとは、知識や学問の価値を否定、もしくは無視する流れです。大学入学者数が増加し、MBAなど大学院レベルでの教育を受ける人の数が増加していることから考えると、Anti-Intellectualismが現実のものであるというのは時に感じにくいかもしれません。しかし様々な場で、Anti-Intellectualismを目の当たりにすることができます。
例えば大学がビジネスを非常に重要視していることがあげられます。高等教育機関であり、研究機関であるはずの大学ですが、図書館への投資よりもフットボールスタジアムへの投資が優先され、教授よりもスポーツチームのコーチのほうが高額の給与を支払われている現実があります。フットボールチームは一流企業のスポンサーにつながり、卒業生や父兄からの献金につながります。逆に図書館への投資はスポンサーにも献金にもつながりません。ビジネスの観点から見れば、どこに投資すべきであるかは一目瞭然ですが、現状は適正なバランスを欠いた状態ではないか、と疑問に思うこともあります。
学生の中には、日本でも同じですがあくまで大学は職を得るためのステップとみなしている人もいます。何を学ぶかにはそれほど興味を示さず、卒業後に仕事を手にするという実用的な目的のためだけに大学に通っています。
大学の枠組みの外でも同じです。博士号を取得した新任の大学教員の契約年収は300万円から450万円と言われています(歴史や社会学の分野です)。これは社会科学や人文科学の分野が大学にとって財団からの基金をもたらしたりしないことを反映していると同時に、大学にとって教育分野の価値判断がその研究の質ではなく、金銭的価値に左右されていることを示しています。同じ人物が大学を離れて一般企業に研究者として就職した場合は、大学の教員であるよりも収入が上がる場合が大半です。多くの研究者はそれでも大学に残って研究や教育を行いますが、学生を教育するという重要な職務の価値がやや軽んじられているようにも感じられて仕方ありません。
今のように州の経済が非常に圧迫されているときには、大学の様々な機関やオフィスができるだけ多くの予算を受けようとしています。もちろんスポーツチームの予算も削られていますが、教員が首になったり、研究費が削減されたり、経費を削る為に1クラスあたりの学生数を増やして教育効果を妥協したりしているのは、多くの大学に共通しています。ある教員が「自分たちはIndispensable brain on a stickでしかない、と言っていました。使い古しの歩く脳みそ、という意味です。しかしAnti-Intellectualismの流れに変化が起こる感じはまったくしてきません。
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