INTERPRETATION

ライティング

木内 裕也

Written from the mitten

 先週の投稿で、私が大学で教えているライティングの授業で使われているトレーニング方法がきっと日本人の学習者にも役立つ、と書きました。私の学生には英語をネイティブスピーカーとして話す学生も、第2の母国語のように話す学生も、外国語として話す学生も1つの教室の中にいます。外国人の学生はTOEFLなどで一定のスコアを得るか、大学に付属しているESLの授業を履修して規定の条件をクリアしないとその他の授業は履修できません。そのため、文法上のミスや英語の構文などは私の授業で教える対象ではありません。そのレベルでのミスがある場合には、ライティングセンターなどで論文を提出する前にチェックを受け、そこで適切な指導を受けることになっています。私の授業で教え、評価をするのは学術論文として適当なリサーチをどう行うか、学術論文の構造はどうなっているのかなどの点です。多くの日本人学習者にとって英語の教材は多く存在しているものの、英語の論文の書き方についての教材は数少なく、また古いものが多く、なかなか効率的に力を伸ばすことができないようです。今週はミシガン州立大学で使われているメソッドを簡単に紹介します。

 複数のメソッドの中で一番の基礎となるのがIARと呼ばれるもの。Invention、Arrangement、Revisionの頭文字をとったものです。学生たちは第2週目の授業でこのメソッドを学びます。最初は短い論文を読み、その論文にどのようなIARが含まれているかを理解します。その後、自分の論文を書き、読む作業と書く作業を繰り返します。Inventionとは、論文を書くきっかけや前提条件です。手元にある論文を書く為に、どのようなリサーチがなされたかというのは1つの大きなInventionの要素です。Primary Sourceと呼ばれるソースを使っているのか。それともSecondary Sourceだけに頼っているのか。インタビューを行っているのか。国勢調査の結果を使っているのか。Academic Article、Trade Press、Popular Pressなどの違いもここで学びます。また多くの学生にとって真新しい経験となるのは、Inventionには筆者の固定概念も含まれている点です。「白人は○○で、黒人は××だ」という内容の論文であれば「筆者が社会を白と黒で2分化している」という評価ができます。また「白人と黒人の間に生まれた子供はどう扱われているのか」という疑問もわきます。このように筆者の固定概念や前提条件を明らかにすることで、本当にその論文の内容に信憑性があるのかどうか判断ができるのと同時に、自分が論文を書く際には自分が当たり前と考えていることが本当に当たり前なのか、という疑問を呈することにつながります。

 Arrangementとはどのような構成で論文を書くか。導入があって、本文があって、結論があるというレベルだけではなく(一般に5パラグラフで学術論文は書けるとも言われていますが)、Literature Reviewと呼ばれる同一分野に関する論文のまとめが書かれているのか、社会科学の論文ならデータやリサーチ手法がまとめられているのか、対立意見はどのように組み込まれているのか、などといった構造を読み取り、自分たちの論文に役立てます。

 Revisionは最終的に発表された論文だけを見てもなかなか推敲のプロセスは読み取りにくいですが、Reviseには論文をどのように書き換えたか、という一般的に考えられるRevisionの意味だけではなく、その論文を通してどのような変化を社会にもたらそうと筆者はしたのか、という意味でのRevisionも含まれます。「一般社会の関心を高めようとしている」「不平等をなくそうとしている」など、目的の部分です。「授業を履修しているから」「合格点をもらうため」というレベルを超えて、意味のある論文を書くには重要な要素の1つです。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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