INTERPRETATION

フランスでの休暇

木内 裕也

Written from the mitten

 夏休みを利用してフランスに2週間行ってきました。Michigan State Universityでは新学年を控えて教員のミーティングが8月末から始まるので、それに間に合うように8月上旬から中旬を休暇にあてました。かつて交換留学生として滞在していたときにお世話になったホストファミリーの家に泊めてもらい、存分にリヨンを散策し、裏庭にあるプールで酷暑に見舞われたヨーロッパの天候を楽しみました。

 初めてフランスに滞在してから10年が経ち、それ以来ほぼ毎年フランスに戻っています。様々な変化がフランスの社会で起こり、それを定期的に目の当たりにするのは非常に興味深い経験です。例えば10年前は1週間の労働時間を35時間に抑えようという努力がなされていました。それによって上昇する失業率を抑え、1人あたりの所得が減ったとしても多くの人が職につける制度を整備しようとしていました。ここ数年はその流れに変化が起こって、やはり40時間くらいは仕事をするのが良いのではないか、という声が聞こえるようになってきていました。この35時間という数字は週休2日制を前提としています。フランスでは基本的に日曜日に仕事をすることが禁じられています。日曜日に営業することはペナルティーとして罰金を支払うことにつながります。しかし今年は「日曜日も営業することを認めたほうがいいのではないか」という意見が交わされていました。

 客の立場から考えれば、もちろん日曜日に個人商店や例外の認められているパン屋以外のお店が閉店してしまうのは非常に不便です。スウェーデンの会社であるIkeaという家具を販売するお店が日曜日にも営業していて、数年前にフランス政府から罰金を課されてそれ以来は日曜日を休業日としています。しかし従業員の立場から考えれば、やはり日曜日には休みたいもの。また日曜日の営業を許可すれば、家族で時間を過ごす時間が減ることになるから、それを許すわけにはいかない、という意見も聞かれます。また日曜日は教会に行く日であり、基本的に安息日だ、という考えも根強くあります。ただ公共交通機関や医療従事者などは日曜日も仕事をしていますから、必ずしもこの考えが誰からも支持されているわけではありません。

 フランスの経済という観点から考えると、日曜日も営業することが望ましいとされています。というのも、フランスの経済を支える重要な産業に観光産業があるからです。観光客がフランスを訪れ、日曜日にどのお店も閉店しているのは望ましくありません。そこで一部の観光都市にある、一部のお店だけは日曜日の営業が認められています。

 そのほかにもエコロジーや環境に配慮する姿勢がフランスでも広がっています。多くの家庭でリンゴの皮やチーズの残り、パンの切れ端などをそのままごみとして捨てるのではなく、コンポストとして埋めたり、肥料にしたりするのが頻繁に行われています。

 ゆっくりと休暇を過ごし、今はアメリカに戻って自宅近くのコーヒー屋にいます。あと1時間半で新学年に向けた会議が始まります。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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