INTERPRETATION

プレゼンテーション

木内 裕也

Written from the mitten

 パワーポイントなどのプレゼンテーション用ソフトウエアを使用することで、見た目の素晴らしいプレゼンを通訳者として頻繁に目にします。しかし英語だけの問題ではなく、多くの日本人に共通する課題も多く見られます。

 例えばプレゼンテーションの構成です。これは英語と日本語の思考形態の違いに原因があるのではないかと思います。例えば英語で論文を書くときには、導入部分で論文全体の要旨をまとめ、そこで最終結果さえ提示してしまうことが珍しくありません。それに対して日本語の論文の多くは出だしから最終結論を述べることは限られています。「AだからBです」と結論を最後に述べる日本語に対し、B because Aと結論を先に述べる英語の文章構造に気を払えば一目瞭然でしょう。

 この差に気づかないと、英語でプレゼンテーションをしていても日本語のロジックにひきずられたままのプレゼンを行ってしまうことになります。新しいスライドを見せて、ずらずらと統計や調査結果を述べても、聞いている外国人にはなかなかメッセージが伝わりません。それよりも、「このページではAという結果が出た理由を説明します」という風にそのページの目的を明確に示すことがプレゼンテーションの価値を高めるでしょう。

 英語表現によってプレゼンの質を高めることがあります。何十枚にも渡るスライドのページを変えるたびに、This is…と説明をする発表者が数多く見かけられます。日本語で「これは○○です」と言うのをそのまま英訳したのかもしれませんが、レストランで飲み物を注文するときに「私はコーヒー」と言う調子で「アイ・アム・コーヒー」と言ったという笑い話もありますが、それを思い出さずにはいられません。This slide is about…と言い換えるだけでも雰囲気は変わります。This slide showsとすればもっといいでしょう。Showという動詞にバリエーションを加えて、Argue, Demonstrate, Prove, Suggest, Claim, Considerなどの単語を内容に合わせて使えば、よりすぐれた表現になります。ちょっとした工夫で、プレゼンテーションは単調なものでなくなります。さらにLet me show you …と言ったり、This slide answers your questionと言ったりすれば、一層関心をよべるはずです。私も通訳者として業務を行っている場合、オリジナルに忠実でありながらなるべく同じ単語を繰り返さないようにします。それは英語が日本語以上に繰り返しを嫌うからです。

 プレゼンの最後にThis is it.とか、This is the end of my presentationという必要はありません。一呼吸入れてThank you.と言えば十分です。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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