INTERPRETATION

ONとOFF

木内 裕也

Written from the mitten

 日本でも「ONとOFFの差をつける」「ONとOFFを使い分ける」という風に、「やる時はやるけれど、リラックスする時は思いっ切りリラックスする」ということの重要性がよく語られています。日本人とアメリカ人を比較すると、それでもアメリカ人のほうがONとOFFの切り替えが上手だと感じます。

 私が始めてアメリカに来たのは1994年の夏でした。3週間のホームステイをカリフォルニア州で行い、そこで仕事から戻ってきた父親が自宅では家族のためだけに時間を過ごすのを見て、日本との違いを強く感じました。残業や家でも会社のPCを開く日本のビジネスマンのイメージとは全く違うものでした。それから15年が経ちましたが、やはりONとOFFの切り替えの上手さを頻繁に感じます。友人の大学教授は朝6時半にはコーヒー屋に向って1日を始めます。午後2時くらいまでは自分の研究などを行っていますが、夕方には自宅に戻り、家族や趣味のために時間を使っています。自動車部品メーカーで働いている友人も、夕方には自宅に戻って娘と時間を過ごしています、もちろんこれは個人の心の持ち方だけではなく、社会がその様な生き方を可能にするかどうかも関係しています。

 サッカーのレフェリーとして、他のレフェリーと週末を過ごしても、やはり同じことを感じます。1日中グラウンドを走り回りながら真面目に審判活動をし、試合が終わるとシャワーを浴び、ミーティングに参加します。その後は一同にバーに繰り出します。ミーティングは時に夜の10時か11時まで行われますから、バーに到着するのは12時ごろ。州によりますが午前2時に閉店するバーが多いなかで、レフェリーの集団は閉店までの2時間を精一杯楽しみます。ダンスをする人、会話を楽しむ人など様々です。そして何よりもONとOFFの使い分けが素晴らしいのは、翌朝の試合が8時開始(集合時間は6時半か7時)であっても、きちんとそこに集合していることです。試合中のパフォーマンスもきちんとしています。これでは、いくら前夜遅くまで外出していても、割り当て担当者や協会の担当者は何も言えません。それどころか、担当者も一緒に夜の時間を楽しむほどです。

 OFFの結果がONに影響をしてしまったり、OFFの間に何をしているかがONに影響してしまうことは問題です。前者の例は「夜遊びのし過ぎで翌朝に朝寝坊」というパターンでしょう。後者の場合は噂話が広がり、仕事の面で支障をきたすケースです。前者はその個人の問題ですが、後者に関しては社会的寛容性の欠如が問題で、理性の範囲内であればOFFを周囲がOFFと理解して寛大に見ることもプラスではないかと感じます。それがONのパフォーマンス向上にもつながるのではないでしょうか。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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