INTERPRETATION

「親しい友人の家」

木内 裕也

Written from the mitten

 先日、何度か留守中の友人宅に行く機会がありました。審判や大学での研究を通して親しくしている友人が家を留守にするということで、飼っている犬2匹の面倒を頼まれたのです。日によっては夜11時過ぎに家族の1人が帰宅するので、それまでの面倒を頼まれ、他の日は友人の家に泊まって面倒を見ることになりました。その様な機会が何度か続いたので、友人からは自宅の鍵の合鍵ももらい、都合のいい時に自由に家に出入りができるようになりました。家の裏庭にはスパがあり、雪が降る氷点下の中、そこに入るのは非常に気持ちがいいものです。また夜は自分の仕事をしながら、キッチンのカウンターに出しておいてくれたワインを少し飲み、自分の家にいるのと変わらないように時間を過ごしました。寝る前にもう1度スパに入り、友人宅2階にある来客用の寝室で翌朝を迎えました。

 なかなか日本では親しい友人の家でも、ゆっくりするのは難しいものです。「自由にしてね」「くつろいでいてね」と言われても、やや緊張気味。12月にはクリスマスや2月にはスーパーボールなどの集まりで、別の友人の家に行きましたが、喉が渇いたら冷蔵庫に向かい、何か食べたくなったら、やはり冷蔵庫や収納スペースに向うのが当たり前です。逆に遠慮していると、なかなか気づいてはもらえません(もちろん、いつかは気づいてくれますが)。

 「感覚の違い」と片付けてしまえばそれまでですが、アメリカの社会で溶け込むには、日本の場合よりも速いスピードで垣根を取り払うことが大切です。日本だと「いかに相手をもてなすことができたか」に重点が置かれがちで、「次回はもっとこうすれば、もてなすことができる」と考えたりします。しかしアメリカでは「いかに相手をリラックスさせることができたか」が重要視されます。初めて家に訪れる人には家を見せて回り、自由に家の中を歩けるようにします。もちろんプライバシーの国ですから、寝室などのドアはしまったまま。しかし来客もそのバランスをわきまえて楽しみます。

 また数日前には別の友人の家に夕食を食べに行きました。審判を通して知り合った夫婦で、2歳数ヶ月の孫がいます。Elizabethという名の彼女に会うのを、いつも楽しみにしています。その時もお土産に何を持っていこうか迷ったので、直接電話をして、「ワインがいい? それとも別の飲み物がいい?」と確認しました。相手も素直に何が欲しいか教えてくれました。金額としては15ドル程度の飲み物ですが、だからこそ気楽に行ったり来たりできるわけです。

 Elizabethは相変わらずYuyaというのに苦労し、時にはYo-yaと言っていましたが、私の手を引いて”Hey, Yuya… Sit!!”と床を指差していました。楽しい数時間を過ごしてきました。117-2_photo.jpg 

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記事を書いた人

木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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