INTERPRETATION

「飛行機のおかしな英語」

木内 裕也

Written from the mitten

 アメリカのコメディー番組でもよく話題になるのは、飛行機の中や飛行場で耳にする表現です。今回はそんな表現をいくつかご紹介します。

 1つ目は搭乗手続きが始まることをアナウンスするこんな表現。I’d like to begin the boarding process. 一見、何の変哲もないようですが、よく考えるとBoarding Processという風にわざわざProcessをつける意味は何でしょう? I’d like to begin the boarding.で十分なはずです。Processをつけると何か重要性が増すようですが、実際には不要な単語です。これは天気予報を見ていると、Shower activity、Rain eventなどという表現を耳にするのと同じです。また警察官や消防士がResponded to an emergency situation.とも言いますが、わざわざSituationをつける意味もありません。これは翻訳者や通訳者が理由もなく大げさな表現を使うことがあるのに似ています。

 そんなアナウンスの直後にあるのはWe would like to pre-board.というもの。Pre-boardとは一体何でしょう? Boardは搭乗。Pre-は「〜の前に」という意味ですから、「搭乗の前」です。しかしファーストクラスやビジネスクラスの搭乗客が乗り込むPre-boardは”Boarding Process”の一部です。これは冷蔵食品をPre-heated ovenに入れるのに似ています。すでに加熱されたオーブンに入れる、という意味ですが、それはHeated ovenでしかありません。This program was pre-recorded.とTV放送でアナウンスがありますが、事前に収録しているのは当たり前のこと。放送後に収録して流すことはできないのですから。ビジネスではPre-existingという言葉がよく使われますが、わざわざPreをつける意味がないでしょう。

 飛行機に乗ると、今度はThis is a non-stop flight.とアナウンスされます。「止まらないフライト」という意味です。そしてNear-missとは「ミスに近い状況」を指すのが言葉通りの解釈です。しかし一般には「衝突に近い状況」を指します。それはNear-hitでしょう。Water landingという表現もありますが、これはCrashing into the oceanでしかありません。

 フライトが終わりに近づくと、こんなアナウンスメントがあります。Before leaving the aircraft, please check around your immediate seating area for any personal belongings that you might have brought onboard. さて、Immediate seating areaとは簡単に言えばSeatです。Please check around your seat.と言えば済むはずです。先ほどのProcessと同じで、意味の薄い表現です。そしてPersonal belongingsという言葉。忘れ物がないように周りを見回すときに、個人の所有物を探すのは当たり前でしょう。飛行機会社の所有物を持ち帰るわけがないのですから。さらにThat you might have brought onboardという最後の表現。「機内に持ち込んだ」と言う意味です。機内に持ち込んでいない所有物を探すわけがありません。これも明らかに過剰な表現です。

 最後はWelcome to …というコメント。同時に到着したフライトアテンダントが、なぜ「ようこそ」と言えるでしょうか? 「ようこそ」とは通常、その地に自分より前からいる人がかけてくれる言葉ではないでしょうか?

 こんなことを考えていると、長いフライトも少しは短く感じられるかもしれません。

Written by

記事を書いた人

木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

END