INTERPRETATION

「個人情報」

木内 裕也

Written from the mitten

 数年前に日本で個人情報保護法ができた時、どのような情報が個人情報であるのか、またどの程度の情報までは第3者と共有できるのかといったことが話題になりました。個人情報やプライバシーといった概念がより進んでいるアメリカでは、この個人情報が大学でも大きなテーマになります。先日、それを実感する体験がありました。

 現在教えている授業を履修している学生の1人が、ストレスによる体調不良のために、数週間授業を休まなければならなくなりました。彼女は実家に戻り、静養していたのですが、その間に宿題やレポートなどが溜まり、また授業内容からも取り残されてしまいました。

 そんなある日、彼女の母親からメールが届きました。メールは私だけではなく、担当授業が所属している学部の学部長などにもコピーされ、「体調不良の娘がどうすればよいか、教えてほしい」ということでした。宿題などを遅れて提出できるのか、欠席がどう彼女の成績に影響を及ぼすのか、といった内容です。メール、もしくは電話で連絡がほしいと書かれ、メールには連絡先も記載されていました。娘の状況を気にかけるのは十分に分かりましたが、私を含め、彼女の母親に情報を与えることは禁じられているのです。

 FREPAという規則があります。これはFamily Educational Rights and Privacy Actという連邦政府が定めたもので、ミシガン州立大学もこの規則に従っています。これは学生が自分の成績や関連の情報を自由に閲覧できる権利を保護していると共に、その情報をもつ大学が第3者に共有することを禁じてもいます。これは例え学生の家族に対しても同じです。学生が「家族に情報を伝えてほしい」と意思表示をしない限り、例え両親に対してであっても、情報を伝えることはできません。

 今回のケースも学生本人からの連絡はなく、母親からのメールでしかありませんでした。場合によっては、学生が彼女の母親に頼んで連絡を取ってもらったのかもしれません。また状況を考えても、母親が入手した情報を悪用しようとか、その情報によって学生に不利益が生じるとは思えませんでした。しかし規則は規則。それも連邦政府の定めた内容ですから、母親には「FREPAによって、情報の公開は認められていません」とメールをするしかありませんでした。

 数日後に学生本人から連絡があったので、病欠が彼女の成績に不利益を生じないように調整することができました。しかし母親からの願いであれば、情報を渡してしまいがちです。しかしうっかりすると、それが連邦規則違反になりえるのです。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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