INTERPRETATION

「知的な英語」

木内 裕也

Written from the mitten

 私が今学期教えている授業では、それぞれの学生が5ページから7ページの短い論文を提出することになっています。学生の論文を読んでいていつも気づくのは、当たり前のことですがネイティブスピーカーだからといって、論文として適切な英語を身につけているとは限らないことです。また学生と会話をしている時にも、表現によって賢そうに聞こえたり、そうでなく聞こえたりするのにも通じています。日本語でもそうですが、難しい表現を使わなくても、「避けるべき表現」とされる表現を使わなければ(語尾を伸ばす、はっきりと発音しないなど)、十分に恥ずかしくないコミュニケーションができるものです。

 学生の論文でよく目にするのが”like”です。日常会話では何の意味もなく、”like”を多用する人が多いですが、”similar to”の意味で使われていることがよくあります。そんな時は”too casual”とコメントをしてレポートを返却します。似たものとして、”huge”や”awesome”も論文では不適切ですが、なれない学生は使ってしまうことがあります。

 会話だと、It’s almost kind of like …という風に、意味をなさない3つの単語”almost” “kind of” “like”を並べていることもあります。ちなみに、今朝のラジオでアナウンサーが実際に言っていました。ネイティブスピーカーで(特にNYの人?)you knowを多用するのと同じように、この様に特に意味の無い言葉を使いすぎると、コミュニケーション上マイナスの評価をされることが少なくありません。「自信がない」「考えがまとまっていない」などとみなされるからです。

 誇張が過ぎるのも学生の典型的なミスです。Since the dawn of human history, the U.S. has … (人類の歴史が始まった頃から、アメリカ合衆国は…)という論文の書き出しは、笑い話のような本当の話です。もちろん、”I didn’t know the US has existed since the dawn of human history!”(人類の歴史が始まった頃から、アメリカがあったなんて知らなかったよ)とコメントをして論文を返却しました。他にもbillions of Americans(何十億人ものアメリカ人)と書いてある論文もありました(アメリカの人口は約3億人)。

 Only、Every、Allなどもリスクの高い表現です。「唯一」「全て」「あらゆる」などと書くと、たった1つの例外が論文の内容を覆してしまうからです。「全ての蟻は黒い」と書いて、シロアリを1匹見つけたら、主張が覆されてしまうのと同じです。ややおかしな例ですが、正確さが求められる論文では、致命的なミスとされます。Many、Majority of、Fewなど、適切なQualifierを使用することで、そのようなミスも防ぐことができます。

 Writing is a process.という言葉があります。書くことに終わりはなく、常に向上し続けなければいけない、という意味です。学生によっては一生懸命書いたレポートが、いい評価を受けることができずに不満を述べる人もいます。数学と違って、問題の解法を理解すれば満点がもらえるのとは違うことになかなか気づけないようです。論文の採点は非常に時間がかかりますが、学生の考えが手に取るように分かると同時に、少しずつコツをつかんでいくのが感じられるのが楽しみでもあります。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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