INTERPRETATION

「アルバカーキーでの出来事 」

木内 裕也

Written from the mitten

 先日、アメリカ研究の学会がニューメキシコ州のアルバカーキーで開かれました。毎年恒例の学会で、今年も参加してきました。最終日に、学会とはまったく関係の無いちょっとしたハプニングがありました。

 ホテルのロビーで飛行場へ行くためのシャトルバスを待っているときのこと。突然20歳前後の男性がロビーに入ってきて、受付の人に「妻の調子が悪いので、助けてくれませんか?」と言いました。指差す先には、入り口の外側で壁に寄りかかっている女性の姿が見えました。彼の話では、バスに乗っていたら吐き気を催したのでバスを降り、歩いている間に意識が朦朧としてきたそうです。受付の人と女性の元へ行ってみると、意識ははっきりしているものの、腹痛を訴えていました。

 朝の11時を少し過ぎた時間でしたが、9時前に起きたときから腹痛があり、そのため何も食べていないとのこと。またロビーの中からは気づかなかったのは、どう年上に考えても18歳位にしか見えない彼女でしたが、妊娠していました。受け答えはするものの、脈は非常に弱く、寒気を訴えていました。腹痛の訴えや妊娠中であることを考え、病院に行くことを勧めました。歩いて数分のところに病院はありましたし、少しずつ彼女の様子は良くなってきていましたが、男性は救急車を求めました。

 ここで非常に驚くべきことがおきました。女性が「救急車を使うお金は無い」と言い出したのです。ニューメキシコ州では1度の要請で400ドル程度の請求があるそうですから、かなりのお金です。彼女は立ち上がり、病院のほうに向けて歩き出しました。男性はその彼女を止める様子も無く、病院とは反対方向に向けて歩き出したのです。

 ロビーに入ってきたときから、男性は薬物の匂いがしていましたし、女性も同じような匂いがしていました。女性が横になっているときも、男性はタバコではない巻物を吸っていました。推測でしかありませんが、薬物が妊娠中の彼女にきっと影響を与えているでしょう。また彼女がきちんとした検診を受けている可能性も低いと思われます。場合によっては、健康保険を持っていないことも考えられます。

 15分弱の体験でしたが、思わぬ場所でアメリカの医療制度について再度考えさせられる経験をしました。

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記事を書いた人

木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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