INTERPRETATION

「日本とアメリカのマナー」

木内 裕也

Written from the mitten

 一般的なイメージとして、日本は礼儀や身だしなみを重んじ、アメリカは自由の代償として礼儀や身だしなみが重んじられていない、と考えがちです。しかし最近、必ずしもそう単純ではなく、場合によってはアメリカのほうがマナーを重視しているのではないか、と思うことが何度かありました。

 例えば近所の河川敷やランニングコースでジョギングをしているとします。アメリカだと知らない人であってもすれ違う人には軽く”Hi”と言ったり、手を上げたり、目で挨拶をしたりします。しかし日本では毎日のようにジョギングのときにすれ違う人であっても、意識的に相手と目を合わせないようにする人が数多くいます。

 接客サービスが優れているといわれる日本ですが、「いらっしゃいませ」や「ありがとうございました」の言葉が形式的に口に出されているだけで、お客さんとアイコンタクトをまったく取らない店員も多くいます。これは個人が別の個人を認識しようとする意識がまったくないために起こるのでしょう。

 確かに欧米ではいかにも不機嫌そうに接客をする人や、長い列ができているのにも関わらず、仲間と喋りながら急ぐ様子もなく接客をする人が沢山います。それでも必ず接客する相手を認識し、目を合わせます。

 アメリカの大学生の多くはキャンパス内に住んでいますから、授業に部屋着とスリッパ姿で現れる学生もいます。最初は驚きましたが、そんな服装をしていてもきちんと授業を聞いている姿を目にすると、「服装はきちんとしていても、授業中に居眠りをする日本の大学生と比較して、どちらが望ましい姿なのだろうか?」と疑問に思わずにはいられませんでした。

 審判の世界でも同様です。先日、日本でユース年代の試合を見に行く機会がありました。そこでは試合前や試合を終えたばかりの審判員が靴下をずり下げて、袖のないアンダーシャツ姿で試合会場を歩いている姿をよく目にしました。これはアメリカのレフェリープログラムでは考えられない姿です。試合前後はサッカーシューズではない黒い靴と、普段用の黒い靴下を履き、協会指定のTシャツを着用しています。シャツは黒い短パンの中に入れ込む、という徹底振りです。写真のように試合直前には試合用の靴下に履き替えますが、やはり靴下をずり下げることも、Tシャツを外に出すこともありません。ちなみにこの写真の3名は左の2人が16歳、右端が14歳と若いレフェリーですが、きちんとした身なりをしています。

 この様な例を考えてみると、必ずしも日本のマナーが優れ、アメリカのマナーが劣っていると一概には言えない気もします。その原因を考えると、もしかするとアメリカでは個人がきちんと判断をしているからなのでは、と思えます。つまり日本では伝えられたことをきちんとこなすことに重点がおかれ、「なぜそうすることが重要なのか?」という本質が理解されていないのです。逆にアメリカでは本質を個人が突き詰める機会があるため、表面的にはマナーがないように見える場合でも、実はきちんと個を認識するなどの行為が行われているのです。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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