「苦手克服の夏」
「批判するなら、その対象を十分に把握していなければいけない」これはミシガン大学で行われていたあるセミナーである教授が口にした言葉です。何気ない言葉として聞いていましたが、このメッセージの重要性を強く感じます。
嫌いなものや、同感できないものを深く知ろうという気持ちはなかなか起きません。私も中学生や高校生のときは歴史が大嫌いでしたから、教科書を開くのも、授業で先生の話を聞くのも億劫でたまりませんでした。しかし本来なら「これが嫌い」というなら、好きなこと以上に深く探求しなければならないのです。これは「知った気になって嫌ってしまう」とか「知った気になって批判してしまう」ということにもつながります。数年前に「種の起源」に代表される進化論を批判する人々と、進化論を支持する人々のディスカッションを目にしたことがあります。そのときに気づいたのは、進化論批判派の人々のほぼ全員が批判の対象としている「種の起源」を読んだことがないという事実でした。中学や高校で大体の内容は学びますが、分厚い本を教科書の数ページにまとめられた要約を読んで分かった気になってしまうのは非常に危険なことです。
似たように古典文学作品と呼ばれるものの多くの要約版がアメリカの書店で売られています。興味がないと1冊を読破するのは難しいのが古典です。それを数十ページにまとめ、重要な点だけを読者に提供するのがそんな要約版です。確かに1度は読んでおいたほうがいい古典作品は数えきらないほどあり、その全てを読むことは非常に困難です。試験対策のように時間が限られている場合は特に効率性が求められるでしょう。しかし要旨をまとめる出版社が重要と思うことと、私達個人の読者が重要だと思うことや、興味深いと思うことが一致するとは限りません。またほんの一部を読んで、作品を理解した気になるのはやはりリスクがあるでしょう。効率性を求めることのマイナス点です。
飛行機に乗るとスカイモールなどと呼ばれる通信販売のカタログが座席前のシートポケットに入っていることがあります。大抵そこに紹介されている商品には、最新のビジネス書の要約シリーズがあります。ビジネス書は非常に人気のあるジャンルの1つですが、同時に色々な本が常に出版されて、その全てを読むには時間がかかります。そのため、スカイモールに紹介されているサービスを利用すると、それぞれのビジネス書の重要なポイントを数ページにまとめて、ダイジェスト版として送ってくれるのでしょう。「短時間で効率よく本の内容を知りたい」というビジネスマンには非常に有効なサービスだと思います。しかしそれと同じスタイルが、ビジネスなどの分野とは違う、文学などにおいて応用されているのを見ると、やや不安な気もします。
私も今では歴史が専門分野になっているとは言え、興味の限られている分野や、本を読んでいても関心をそそられない分野があります。しかしできるだけ、興味のある分野の本を読む合間に、そんな分野の本を手に取るようにしています。読むのに時間がかかり苦労をしますが、今まで避けてきた分野だけに、学ぶことが非常に沢山あります。また思わぬ形で、自分の専門分野とつながる部分を見つけることもあります。これは学際的研究(Interdisciplinarity)が求められるアメリカ研究では非常に重要なことです。
そんなこともあり、今年の夏は日本文学の古典に手を伸ばそうかと思っています。
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