「スポーツとブランド」
アメリカで教えている授業で扱ってもいますが、スポーツとブランドは密接な関係があります。マイケル・ジョーダンがナイキの企業イメージを向上させて、ナイキブランドをトップレベルのスポーツブランドとして確立させたことはその例の1つでしょう。またかつてはアディダス、プーマ、アシックスの3社が日本代表サッカーチームのユニホームを順番に作成していたのに対し、今ではアディダスが見事に独占契約を結んだのも、企業とスポーツの密接な関係を示しています。
また、バスケットボールのイメージが強いナイキが、サッカーにも力を入れ始め、ブラジルなど、ワールドカップで優勝を狙える強豪チームをスポンサーするようになりました。しかし一昨年のドイツワールドカップでは上位4チームがイタリア、フランス、ポルトガル、ドイツとプーマとアディダスにスポンサーされるチームであったことは、ナイキにとっては大きな計算ミスであったと考えることもできます。
アメリカのサッカー審判員の用具を製造しているOfficial Sports Internationalという会社はインディアナ州の小さな会社ですが、10万人を超えるレフェリーをお客さんとして、非常に大きな利益を上げています。試合で使うユニホームから、トレーニングのジャージ、警告や退場のカード、移動用のポロシャツまで、公式の商品は全てOSIが製造販売しています。選手やファンをお客さんと比べるのに対して、ある意味ではニッチ市場といえるでしょう。しかしアメリカサッカー連盟の公認を受けているのはOSIだけですから、これまで非常にビジネスは成功していると言えます。
しかし今年からアメリカプロリーグ1部(日本のJ1相当)を担当する審判員にアディダス製の審判ウエアが支給されるようになり、OSIの独占にややかげりが見えていることも事実です。これまでは1部もOSIでしたが、1部の各チームが全てアディダスによってスポンサーされるようになり、審判員もアディダスに統一されました。そのため「2010年にその他のレフェリーもアディダス製品を使わなければいけなくなる」という噂が流れるようになり、特に今年からOSIのユニホームデザインが変わり、数百ドルを投資して新しいユニホームを購入したレフェリーが多いことも手伝って、ややOSIに対するマイナスの感情が感じられることもあります。
この様にナイキがバスケットからサッカーに市場を広げようとしたり、アディダスがサッカーでの優位性を一層強めようとする様に、Brand Hijackingということも行われます。ブランドをハイジャックする、とは消費者があるブランドの新しいイメージを作り出すことです。例えばコニャックやキャディラックなどのブランドは富裕層のリッチなイメージでしたが、ヒップホップのアーティストがコニャックを飲み、キャディラックを乗り回すようになってイメージが変わりました。企業にとっては新しい顧客層が生まれるというプラスがあると同時に、これまでの顧客を失う可能性もあり、やや危険な状況ともいえます。ガーデニング用のサンダルが、お洒落なサンダルとして知れ渡り、利用されるようになったのも、その例の1つです。
ブランドのイメージ、戦略などを見るだけでも、非常に面白い世界が見えてくる気がします。
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