INTERPRETATION

「スコットランド」

木内 裕也

Written from the mitten

 ボストン、ダラスと外出が続いていましたが、その直後にスコットランドに行ってきました。その言い訳は、もちろん学会。ちゃんと論文の発表もしてきましたが、やはり学会より「スコットランドに行く」という事のほうにワクワクしていました。ヨーロッパには住んでいたこともありますが、大陸と海を挟むイギリスとなると、ワクワク感は一層高まります。残念ながらイングランドなど、スコットランドから足を伸ばすことはできませんでしたが、初めてのエジンバラを楽しんできました。

 学会はエジンバラ大学で行われ、発表者の宿舎は学生寮が使用されました。アメリカで行われる学会の多くは、ヒルトン、マリオットなど有名なホテルを会場にしたり、オフシーズンのリゾート地を貸し切ったりすることが多くあります。しかしイギリス人の友人の話では、欧州の学会は大学で行うことが多いとか。アメリカの学会のような派手さはありませんでしたが、数日間だけイギリスの大学生になったような気分を味わうことができました。

 学会はイギリスのアメリカ研究学会が主催する年次大会でした。この学会に参加するのは初めてでしたが、これまでアメリカで参加した学会と比べて、とても保守的なテーマが多いのに気づきました。発表テーマの多くは歴史か文学に関するもの。アメリカだと大衆文化や移民文化を扱うパネルがたくさんありますが、アフリカ系アメリカ人の論文を扱うパネルは、私が発表したものだけでした。学会の最中に色々な功績を賞して、様々な賞が贈られていましたが、受賞者が専門とするテーマもやはり歴史と文学が中心でした。地域研究を、その地域から遠く離れた場所で行うには、やはり扱う分野の点で制限が出てきてしまうのかもしれません。文化を専門とするには、やはりその地域にいるのが一番。海外にいると、日本の最新の大衆文化がわからなくなるのと似ているかもしれません。

 学会に行くと、朝から夜までできるだけ数多くのパネルに参加して、夜になると発表原稿を推敲する発表者を見かけます。しかし私は本当に興味のあるパネルにしか参加しません。発表原稿も、現地に到着したら発表寸前まで見ることはありません。それは、会場で色々な人と出会い、色々な話をすることのほうが、学会の価値があると思うからです。会話をすることで新たなアイデアが浮かんだり、他の人の役に立つ情報を提供することができます。これは実際に学会に参加しないとできないことです。今回もパネルの参加は程ほどに、ヨーロッパ各地、日本、アメリカなどからの参加者と色々な話をしてきました。

 井戸端会議ではありませんが、そんな「おしゃべり」が元になってリサーチが進んだことが何度もあります。そしてそんなおしゃべりが行われるのは、もちろんバーです。有名ホテルで行われる学会だと、ロビーにある高価なバーが会場となりますが、大学のキャンパスが会場となった今回は、ホテルのバーと比較して随分と安価な、近所のバーに学会の参加者が集合しました。バーで働いている人は、いつもは学生が中心の客層なのが、学会の期間中は平均年齢が上がっているなあ、と話をしていました。

 ミシガンからは私を含めて、写真にいる5名が参加しました。学会期間中には1日エジンバラを離れて、グラスゴーや、ゴルフで有名なセント・アンドリュースにも観光に行きました。さて、次の学会は5月中旬のベルギーとルーマニア。今まで訪れたことのない街に行けることにワクワクしていますが、その前に論文を完成させなければいけません。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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