「身近に感じるグローバル化」
私が教えている授業では、アメリカ文化がどう世界に発信されているかを扱うと同時に、外国の文化や商品がアメリカに入っている様子も伝えています。アメリカ人の多くにとって「グローバル化」という言葉で想像するのはアメリカから外国への一方通行の様子。日本人にとっては日本文化が海外で紹介されていることも知っていますし、諸外国の文化が日本に入っていることも知っています。しかしアメリカ人はとかく一方通行のイメージを持ってしまいがちです。
そんなアメリカ人の学生に「グローバル化」の姿を感じさせる2つの方法があります。私が実際に授業で取り入れている手法で、今週はそれを紹介したいと思います。1つ目はTシャツやトレーナーを使う方法です。Pietra Rivoliという経済学者の書いたThe Travels of a T-Shirt in the Global Economyという本が少し前にアメリカでは話題になりましたが、我々が着ているものの多くは外国で作られたものです。しかも、この本が紹介している通り、Made in Chinaと書かれたTシャツをアメリカで見つけ、中国の業者に問い合わせてみると、コットンの生産地がアメリカのテキサス州であった、ということもあります。そこで学生に尋ねるのは、その時に着ているシャツやトレーナー、ズボンの生産国名を挙げてもらうことです。中国、ベトナム、タイというアジア諸国から、メキシコ、エルサルバドルという中南米の国まで、色々な国名が列挙されます。アメリカの大学生はそれほどお金がありませんから、フランス、イタリアといった国が並ぶことはなかなかありません。しかし黒板に書かれた国のリストを眺めるだけで、学生は自分達の着衣が想像以上にグローバル化の影響を受けていることに気づきます。オフィスなど10人位の人が集まったところで、1人シャツとズボンとコートの3点ずつ生産国名を調べてみると、きっと思いのほか色々な国の名前が挙げられるはずです。
2つ目の方法は、有名企業の名前をリスト化して、その企業の主要な製品(サービス)と国名を書かせる作業です。インテル、マイクロソフト、グーグルなどIT系企業の多くはアメリカの企業で、学生も容易にこたえることができます。しかしサムスンやヒュンダイ自動車になると、多くの学生は「日本!」と答えます。ソニーやホンダのイメージが強いからか、テクノロジーや自動車のメーカーで、アメリカの企業で無いと、日本の企業であると想像するパターンが見えてきます。また、フィリップスやシェル石油などオランダ企業は大半の学生が誤答します。アイスクリームのハーゲンダッツはドイツ系の響きを持たせるために英語風ではない名前になっていますが、アメリカの企業です。ナイキはアメリカですが、アディダスはドイツ。ネスカフェやネスレはスイス。さすがに任天堂は皆が口をそろえて「日本!」と答えます。この授業で学生が学ぶのは、当たり前に感じているブランドが実は外国の企業である可能性が非常に高いということ。もちろん、実際にそのブランドが作っている商品は、諸外国の部品が使われています。アメリカを初めて訪れた5歳の日本人の女の子が、「アメリカにもマクドナルドってあるんだね」と言った、という逸話があるくらい、私達の生活はグローバル化に影響されています。
アメリカ文化や企業中心の思考になりがちな現地の学生も、この授業で少し、考えを変えるようです。
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