INTERPRETATION

「レフェリー・アセッサー・コース」

木内 裕也

Written from the mitten

サッカーの審判員として活動していることは、何度かこのブログにも書きました。今はシーズンオフで、3月に行われるダラスカップまで公式の大会はお休みです。そんな中、サッカー協会から依頼を受け、審判アセッサーの資格を取得することになりました。アメリカサッカー連盟の審判委員会には4つのライセンスがあります。1つ目は当然のことですがレフェリー。実際にフィールドに立って審判活動をする人達です。例えばミシガン州には5054人の審判員が登録されています。2つ目のライセンスはインストラクター。審判資格の取得や更新の際には、定められた講習会を受講しなければなりません。そこで講義を行う資格です。3つ目はアサイナーと呼ばれる資格。審判員のリストから、適切なレフェリーを試合に割り当てを行う資格です。レフェリーの技能や経験を判断して割り当てを行う作業は、想像以上に時間を要する仕事だそうです。私はレフェリーとしては活動をしていますが、インストラクターやアサイナーの資格は持っていません。そして4つ目が私の取得したアセッサー。試合会場に派遣されてレフェリーの技能をチェックするライセンスです。

 審判員の資格は1級から8級まであります。自らの級を維持するためには、毎年定められた試合数でアセッサーに審判活動を評価してもらう必要があります。「グレード・メインテナンス」と呼ばれるアセスメントです。また、昇級を目指す場合には「アップグレード」と呼ばれるアセスメントを受けて合格しなければなりません。アセッサーはそのような会場に協会から派遣されて担当審判員を評価し合否を決めると同時に、どうすればよりよいレフェリーになることが出来るかアドバイスをする役目を負っています。

 ミシガン州には約50名のアセッサーがいます。アセッサーにも3級から9級まであり、経験によって派遣される試合が異なります。私が受講した3日間のコースには他に9名のアセッサー候補が参加しました。皆現役の審判員ですが、数名を除いては「最近、体が動かなくて、審判活動を引退しようかと思っているんだ」という人が多数でした。自分の経験を生かして若いレフェリーに指導をしたい、という気持ちで参加している人々です。また、参加者の中には試合で一緒になったことのある顔見知りのレフェリーもいました。

 講習会は少人数で和気藹々と行われました。採点の方法や、アセスメントの手続きなど事務的なことを学んだ後は、実際の試合の様子を録画したDVDを何本も見ながら、実際にアセスメントを行いました。テレビでサッカー中継を見るのとは違い、想像以上に集中力を求められる作業であることがわかりました。「今の反則と思われるプレーをレフェリーは見ていたのか?」「見えていたなら、なぜ反則の笛を吹かなかったのか?」「見えていなかったなら、なぜ見えなかったのか?」など自問しながらレフェリーのパフォーマンスを書き出し、それぞれの審判員の弱点と長所を見出さなければなりません。

 日本と比べて、アメリカの審判員はお互いのパフォーマンスについてより気軽に意見交換をします。年齢や経験に関係なく、「ここは、あのようにしたほうがいいのでは?」などと言う様子をよく目にします。今年からは審判仲間として意見交換をするだけでなく、数試合はアセッサーとして試合会場に足を運ぶことになりそうです。

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記事を書いた人

木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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