INTERPRETATION

「日本語の諺や表現」

木内 裕也

Written from the mitten

年に数回日本に戻ると、意外な物や人が人気を集めていて驚くことがあります。数週間前に帰国したときには、「藪からスティック」などと英単語を混ぜながら話すコメディアンが頻繁にテレビに出ていて、驚きました。「ちょっと、表現が違うでしょう」とか「どう考えても、これでは通じないだろうなあ」と思わず考えてしまうこともありましたが、ふと「日本語の慣用表現をそのまま英訳したら、ネイティブスピーカーはどんな意味だと想像するんだろう?」と疑問が湧きました。そこでいくつかの表現を実際に友人に確認してみたところ、面白い結果が出てきました。

1つ目の表現は、前述の「藪から棒」です。友人は「全く意味が想像できない」と言いながら、「出る杭は打たれる」に似た意味では?と推測していました。もしくは、用心深く物事を進めないと、思わぬ結果につながってしまう、という注意を喚起する表現ではないか、とも想像していました。思いがけない出来事が起こる、という意味には想像できなかったようです。

2つ目は「犬も歩けば棒にあたる」です。何かをしたり、発言したりする時は周囲をよく見るように、という意味ではないかと推測していました。英語ではEvery dog has his dayと訳されることが多いですが、「なぜ棒にあたるのが幸運なのか?」という根本的な部分が理解できなかったようです。

3つ目は「2階から目薬」です。その意味として「優位な立場や条件から他人を批評すること」と「効果の無い方法で手助けをすること」という2つの推測をしていました。もちろん、後者が正答です。Fanning the sun with a peacock’s featherという英訳もありますが、これは一度も聞いたことの無い表現です。

4つ目は「豆腐の角に頭をぶつける」というもの。日本人でも、なかなかこの表現を使う状況は無いかもしれませんが、友人の回答は「たいしたことでもないのに、大げさに振舞うこと」というもの。英語ではMaking mountains out of a molehills.といいますね。何となく彼がそう想像する理由がわかるような気もします。

 最後は「触らぬ神に祟りなし」で、Let a sleeping dog lieと英語で言います。「目標を高く立てすぎると、達成するのが難しくなるだけではなく、色々な問題も発生する」という意味では、と推測していました。

 日本語を喋る私達が、これらの表現の意味を理解できるのは、十分な背景知識を持っているからこそ。突然外国語の慣用表現を聞いて、その意味を推測するのは非常に難しいことでしょう。

 カタカナ語や、曖昧な外国語表現は、外国語でコミュニケーションを取るときの障害になることもありますが、外国文化や言葉を学ぶきっかけにもなるのではないでしょうか。

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記事を書いた人

木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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