INTERPRETATION

「アメリカの中間テスト」

木内 裕也

Written from the mitten

「中間テスト」という響きには、何か中学校や高校時代を思い出させる雰囲気があります。日本の大学にいた頃は、ほとんどの授業で中間テストは行われていませんでしたが、ボストンでもミシガンでも、こちらの大学では比較的多くの授業が中間テストを行っています。私の教えている授業がアメリカの典型的な中間テストを行っているわけではありませんが、今週はそんなテストの一例として、先月行った中間試験の問題を紹介したいと思います。

 今学期、私が担当している授業はUS and the Worldと呼ばれる授業です。昨年も同じ名前の授業を教えていましたが、今年はメディアやその他の大衆文化の内容を増加させ、学生にとって関心を持ちやすい内容になっています。8月末に授業が始まり、中間試験は10月の中旬に行われました。テストは2部構成。第1部では、与えられた6つのキーワードの定義を書き、その例を挙げることが求められます。例えば「地球温暖化」であれば、その意味を述べ、実際の例を数センテンスで書かなければいけません。第2部はエッセイです。与えられた3つのテーマのうち、1つを選択し、それについて5〜6段落程度のエッセイを書きます。これを80分間の時間制限で行う、というテストでした。

 第1部で与えられたキーワードは、”Brand Hijacking” “Glocalization” “Hegemony” “Taste” “Exceptionalism” “Doing well by doing good” の6つです。どれも授業で扱った用語です。Brand Hijackingとは、企業が意図していなかった消費者層がある商品を購入し始め、商品の持つイメージが変ってしまうことを指します。例えばキャディラックは富裕層を対象にした自動車でしたが、ヒップホップのスターが乗り回すようになってから、車の持つイメージが変りました。もしもメタボリックに悩む人々がこぞってナイキのスニーカーを履きだしたら、バスケットボール選手が履いている場合とは違ったブランドイメージができ上がるでしょう。

Glocalizationとは、企業がグローバル化する時に、新しいマーケットのためにlocalizeしながら、globalizeすることです。日本でもビジネスの場で盛んに使われている言葉です。ここで重要なのは70:30の法則です。国際企業は、どの市場でもその業務の70%は世界基準を維持し、残りの30%は地域性に適応させる、というもの。マクドナルドのメニューの大半は世界共通ですが、テリヤキがあったり、飲み物のサイズが違ったりするように、地域性もあります。

Hegemonyとは、アメリカのようにスーパーパワーと呼ばれる国を指しますが、同時に目に見えない力を指す言葉でもあります。例えば綺麗な芝生のある公園に行くと、遊歩道としてコンクリートの道が整備されていることがあります。確かに芝生の上を歩くより、アスファルトの上を歩くほうが楽ですし、靴も汚れないでしょう。しかし私達が芝生の上を歩くと、管理者は芝生の手入れをより綿密に行わなければなりません。そうすると、遊歩道を設置する支出があっても、最終的には管理者の利益が生まれます。私達は何も考えずに遊歩道を歩くのですが、実際はこのような目に見えない影響を受けているのです。

Tasteは味覚だけではなく、個人の嗜好を意味します。個人の嗜好は社会に左右されることを理解することが大切です。「サンダルを履く時に、靴下を履くのは格好悪い」というのは多くの人が共通に認識している嗜好ですが、これは必ずしも個人の考えに基づくものと言うより、社会が「サンダルと靴下は一緒に履くべきでない」という考えを個人に与えているからともいえます。

Exceptionalismについては、2つの見解を授業で紹介しました。ある国が、自国を特別な存在とみなすのが1つ目です。例えばアメリカが核兵器を持つのは問題ないけれど、他国は核兵器を持つべきでない、と主張するのは、このような例外主義に基づいています。また、2つ目の意味として、文化的な例外主義もあります。世界の自由貿易は推奨されるべきだけれど、各国の文化は守らなければいけない、という考えです。フランスのようにラジオ番組で流す海外の音楽の数を制限したりするのは、文化的例外主義の一例です。

Doing well by doing goodは、企業が社会的によいことをすることによって、収益を高めることを指します。例えば最近では100ドルで買えるパソコンを開発し、貧困層にもパソコンを普及させよう、というプログラムがあります。これは社会的に企業がよい行いをしているだけではなく、それによってその企業がより大きな収益をあげようとする試みでもあります。

 これらの6つの用語を定義した後は、第2部のエッセイがあります。学生は以下の3つの設問のうち1つを選んで、回答をしなければなりません。

「任意の世界ブランドを1つ選び、そのブランドが世界的に持つ意味や問題点を挙げよ」

「アメリカ化とは何か? そしてなぜ脱アメリカ化を目指す国々が多いのが述べよ」

「国際化する世界の中で、心理的、経済的、文化的、地理的、政治的な障壁が存在するが、例を挙げながら、それらが国際化に与える影響を述べよ」

 第1部も第2部も、ただ暗記するだけでは好成績を挙げることができないように作られています。学んだアイデアを実際に応用したり、それを使って世界の流れを分析できるかが試されます。各学生が数ページにわたる回答を提出しますから、75人分を採点するのは非常に時間が掛かります。しかし採点をしながら、多くの学生が誤った回答をした問題を発見することで、「自分の説明が不十分だったのかもしれない」「もう少し具体的な例を挙げて解説したほうがよかったかもしれない」などと、発見できることが非常に有益です。

 秋学期も残りが1ヶ月程度。すぐに期末テストの時期です。

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記事を書いた人

木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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