INTERPRETATION

「新学期突入」

木内 裕也

Written from the mitten

8月の最終週から、ミシガン州立大学(MSU)は新学年を迎えました。それを前に、私はリサーチを行っていたボストンから、ニューヨーク州を経由して、18時間掛けてミシガンまで運転して戻りました。1枚目の写真は早朝のニューヨーク州の高速道路です。ミシガンへはカナダ経由で向かったので、2枚目の写真がアメリカからカナダへ入る国境、そして3枚目がカナダからアメリカに戻る国境です。授業が始まる前の数日間は、大学の構内にある寮には新しく入学した学生や、2年目以降の学生が休みを終えて戻ってきて、大賑わいになりました。大きなSUVやバンに色々な荷物を積んで、家族総出で引越しです。

 私が今学期教えるのは、昨年と同じようにIntegrative Arts and Humanities(IAH)と呼ばれる分野のUS and the Worldという授業。MSUの学生にとっては必修科目の1つです。大学2年生を中心とした学生が履修し、理系の学生の間からは「自分の専攻とはあまり関係の無い授業」とやや人気の低い授業。毎学期、そんな学生の関心をいかに惹いて、専門分野に関わらず「物を考える作業」の重要性を伝えるのが、IAHを担当する者たちの大きなテーマです。昨年までと同じ授業を教えるとはいえ、このブログでも夏に紹介したとおり、カリキュラムに大きな変化をくわえました。今までは70分間の講義を週に2回と、50分間の講義を週に1回行っていましたが、今学期から50分の講義が週に3回に短縮されました。その代わり、Online Moduleと呼ばれる、インターネット上での宿題が課され、300人が出席する講義では果たせないインターアクティブな要素が加わっています。また、5月に数名の学生を集めてインタビューをした結果、「抜き打ちテストがないと、なかなか教科書を読む気にならないから、出来ればテストをして欲しい」という素直で前向きな意見も出ました。そこで今学期は6回の抜き打ちテストも予定されています。4冊の教科書も1冊を除いて一新しました。

 第1週目を終えた感触では、先学期より学生のモチベーションは高いように感じます。授業はUS and the Worldとグローバルな内容を扱う授業ですが、第1週目はSocial Locationをキーワードに、自分と世界の関わりを考えることから始めます。「自分とは何か?」というマイクロレベル、「自分の周りの家族、友達、家族は自分をどう見ているのか?」というメソレベル、「アメリカのなかで自分の存在意義は何か?」というマクロレベル、「世界の中で自分の存在意義は何か?」というマクロレベルの4段階に分けて講義を行いました。そして学生は自分の目から見た4つのレベルのSocial Locationをパワーポイントにまとめ、オンラインで提出し、意見交換を行いました。学生によっては宗教をマクロレベルのアイデンティティーとする人や(宗教的価値観が自分の行動を定義する)、グローバルレベルのアイデンティティーとする人(宗教を通して、他の国の人とも共通の価値観を共有している)がいたり、様々な興味深い視点が見えてきました。

 来週はLone Starという映画を授業で見せます。この映画はBorder Theoryを教える上で非常に効果的です。ボーダーと耳にすると、国境ばかりを考えてしまいますが、経済的なもの、心理的なもの、政治的なものなど、色々な種類があります。「同じ距離でも、500メートル先のマクドナルドより、駅の向こうにあるマクドナルドの方が遠く感じられる」というのも心理的なボーダーですし、「自分は医学部の学生だからIAHの授業はつまらない」というのもその1つです。

 このようにこの授業では色々なキーワードを紹介し、それを通して自分達の生活を見つめなおすのが大きな目的です。学生達が途中で脱落することなく、楽しんで12月まで残ってくれるでしょうか?

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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