「親しみやすさの重要性」
数回前の投稿で、権威に対する考え方が日本とアメリカでは違っていると書きました。日本では権威をとにかく尊重し、疑うことは非常に少ないですが、アメリカでは常に権威は疑いの目を向けられています。だからこそ、Check and Balanceなどの考えがアメリカでは非常に簡単に受け入れられるのでしょう。こんな文化的な違いに似ているのが、「親しみやすさ」の重要性です。
相手に自分を「親しみやすい人」と感じさせるのは、アメリカで成功したり、人気を得たりするのに、とても大切です。”He/She is one of us.”と思わせると、相手との境界線を取り払い、「別世界の人」というレッテルを避けることができます。そのため、優秀な指導者やリーダーと呼ばれる人は、多くの場合、一般的な市民や国民、社員と近い存在であろうとします(実際には収入格差などは日本より大きいのですが)。
例えば、話題の大統領選挙。ただ威張り散らしたり、逆に媚を売ったり、もしくは自分の知識をひけらかすだけではなく、多くの候補者が「自分は一人一人の国民と何ら変らない人間だ」というイメージを打ち出しています(ある意味では、日本でも選挙前に自転車に乗って選挙活動をする候補者がいるのに似ているかもしれません)。その結果、FacebookやMySpaceと呼ばれる、大学生や若者の間で人気のSNSで自分のページを開設し、時に政治に無関心な層と呼ばれる人々からの支持を得ようとしています。また、YouTubeなどのサイトも利用して、面白いビデオを投稿する20代の若者と同じように、自分の演説を投稿することもあります。
それを反映してか、例えば有力候補の一人とされているObama上院議員などは、様々な彼の応援歌ができました。YouTubeで彼の名前を検索すると、実際のプロモーションビデオを見ることもできます。Obama候補の政治活動とは全く無関係のビデオですが、あたかも「友達のために応援ソングを作ろう!」といった雰囲気でこのような作品が生まれるObama候補のイメージ作りに、アメリカのメディアは感心しています。現在のBush大統領も、英語を間違えたり、ドジな姿を見せたりすることで、人気は低迷しているものの、「かわいらしさ」を維持している、という評判もあります。
たとえ偉ぶっていなくても、自分達の仲間だ、と思わせることができないと、アメリカ社会では失敗することがあります。それを分かっているからこそ、プライベートジェットに乗るようなCEOも、一般社員に自分のことをファーストネームで呼ばせ、現場になるべく姿を見せようとします。
これはスポーツの世界でも同様です。日本の審判員は、アメリカの審判員よりも、選手と自分の間に軋轢を作りがちです。「自分が試合をコントロールするんだ」という意識が強すぎて、選手とは別世界に存在してしまうのです。逆にアメリカの審判員は、「選手と一緒に試合をコントロールしよう」と考え、試合開始前から、選手達とは非常に和気藹々と過ごしています。ミスをすれば比較的容易にそれを認めます。「自分がシュートのミスをするのと同じように、審判も判定でミスをする」と思わせることができれば、試合のコントロールは簡単です。選手も「自分達と試合中に話をしてくれない審判は嫌いだ」と言っています。
自分と相手の垣根を取り払う、ということは、通訳や学術的な現場でもよく目撃します。その分野の権威と呼ばれる人がプレゼンを行う時に、「この問題を一緒に考えてみましょう」と言ったり、「私達はこんな問題を抱えています」と言ったり、あえてYouではなく、Weという主語を使います。それによって、聴衆は「あの偉い人が、よくわかりもしないのに色々なことを言っているけど、そんなのを実行するのは無理だ」と思う代わりに、「よし、一緒に考えてもらって、解決策が生まれればいいな」と思ったりするのです。
もちろん、この反動は以前に書いたとおり、尊敬の念が薄まることにあります。日本と同じくらい、権威を尊重するのが適切なのか分かりませんが、アメリカにいると、時に「もう少し権威に従う、ということを学んだほうがいいのではないだろうか?」と思うこともあります。
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