「エキスパートとは」
これまでにこのブログで何度か、日米の医療や保険制度についてお話をしました。今回は医師と患者のコミュニケーションについて書きたいと思います。以前の投稿にあるように、アメリカにいると保険でカバーされるかといった不安があったり、また大きな病院で見てもらうにはまずは地元のかかりつけ病院へ行って紹介状を書いてもらわなければいけない、など不便を感じることが多々あります。逆に日本にいれば、保険の適用を心配することもありませんし、少しの手数料を払えば大きな大学病院で診察してもらうことも出来ます。しかしアメリカのシステムが優れていると思うのは、医師と患者のコミュニケーションです。最近では日本のシステムにも変化があるようですが、「専門的な部分はこちらに任せて、患者は言われたとおりに回復に専念すればよい」という雰囲気を感じることもあります。逆に「セカンドオピニオン」発祥国でもあるアメリカでは、患者がどんどんと医師に説明を求めますし、医師も丁寧にそれに答えてくれます。もちろん、日本でそれが難しいのは予約制で無い場合、何十人もの患者が集まって、一人一人に長い時間をかけてお話できない、という実情もあるのでしょうが。
しかし、先日私を診断してくださったのは、非常に個人を丁寧に扱う先生でした。定期的な健康チェックを含め、また少し頭痛もあったため、診察を受けることにしました。最初は大きな大学病院でその先生に出会いました。非常に混雑していて、私も数時間待ちましたが、病室に入ると「病気を観察する」という姿勢ではなく、「病気を抱えている(かもしれない)患者全体を見つめる」という姿勢で、私の生活スタイルについてじっくりと問診されました。偶然、その先生もアメリカで勉強されたことがあり、また私の日本の出身大学と先生の家族の出身大学が同じだったりして、非常にリラックスして問診を受けることが出来ました。
念のために頭部のMRIとMRAを撮ることになり、後日その結果を先生の個人のクリニックに持っていきました。そこでも写真を見る前に、私の研究のことや、通訳のことなどを質問され、身体的な疲れが無くても、脳に疲れが溜まる可能性があることなどについて説明を受けました。また、実際に写真を見て、ただ「異常ないですね」というのではなく、MRIには眼球が白く映るタイプと、黒く映るタイプがあること、またその二つを電子的に組み合わせた写真が診断には非常で有効であることなど基本的な情報から、それぞれの写真が脳のどの様な機能をしている、どの部分を写しているのか、また病変は白く見えるけど神経線維も白く見えることなど、私にもよくわかる方法で説明してくださいました。
クリニックから帰宅しながら、その先生とのやり取りを思い返し、「これが本当のエキスパートということだろうなあ」と感じました。専門家はその分野の知識を豊富に有し、それを他の専門家と議論する力があるのは当たり前です。しかしその人の本当の実力が垣間見えるのは、どんな専門的な内容でも、どんなに最先端の内容でも、一般的な素人や、時には小学生にだってわかるように説明が出来るかどうかではないでしょうか。通訳業界に身をおくものであれば、「なんでたった一日の仕事で、2人も3人も通訳者が必要なのですか?」という質問を受けたり、「なぜ語順の違う言語を同時に訳せるのですか?」と聞かれたりします。またアメリカ研究を専門にしていると、「あれほど平等を理想とする国が、なぜ国内は不平等だらけなのですか?」といった質問を受けます。それをいかにわかりやすく説明できるかこそが、その人の精通の度合いを示しているような気がしました。
今回はCD-ROMでいただいた百枚以上のMRI/MRA写真から、選りすぐりの一枚をご紹介します。
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