「90分間の同時通訳」
現在、アメリカから日本に一時帰国中で、こちらでも通訳のお仕事を頂いています。その中でも非常に印象に残る案件があったので、ご紹介します。通訳内容は、金沢で行われた留学生や財団の関係者を対象にした異文化間コミュニケーションに関する基調講演の日英同時通訳。ノンストップ90分間に渡る講演の同通を、1人でこなしてきました。今回は通常のケースと違い、やや変則的な形で依頼を受け、基調講演者の紹介や、その前の関係者挨拶など、約30分間を担当する同時通訳者は現地で2名手配されていました。しかし講演については、その内容に既に精通している私に、という希望があり、その部分だけ私が対応することになっていました(同じスピーカーの通訳をそれまでに行ったことがあります)。私がもう1名の通訳者より多く担当することになるかもしれない、と伺っていたので、「少し変則的だけど、自分が20分訳して、もう1人が10分、というパターンなのかな?」と思って現地入り。しかし、実は私が90分の全てを訳すことになっていました。
これまで同通の訓練で30分間〜40分間のスピーチを訳したり、企業内の会議で1時間以上のプレゼンをウィスパリングすることはありましたが、ブースの中から基調講演を90分間も同通するのは始めて(同時通訳は集中力を要するため、通常は15分で交代します)。そもそも、聴衆が聞いていて苦痛にならない訳の質を維持できるのか、やや不安になりました。一体どうなるものかと思いながらも、チャレンジ好きな性格からか、次第に講演が始まるのが楽しみになってきました。現地手配の通訳者が1名、ブースの中にとどまってくださり、メモ取りを行ったり、どうしても換わってもらう必要が出たときにはお願いすることにしました。
講演が始まって最初の20分くらいは快調でした。最初の山場は30分を越えたあたり。講演の内容は非常に面白かったのですが、ブースに置いた腕時計を見て「まだ1時間もある」と思うと、やや疲れを感じてきました。しかしジョギングと同じように、その山場を越えると、途端に訳出が楽になってきました。興味深いものです。
集中力が少し落ち始めてきた、と感じたのは講演が始まって約1時間が経過した頃。ちょうどそのあたりで演者がいくつか統計を紹介したり、「日本のことわざで言えば……」というような通訳者にとってはやや緊張する一瞬が続きました。そんな時には、かなり横からのメモが役に立ちました。
また講演では言語が突然、日本語から英語に変わったり、英語から日本語に変わったりしました。これも通訳者泣かせ。ブースの中でアウトプットのチャンネルを「1」にしたり「2」にしたり、最後まで集中力の必要なスピーチでした。
しかし講演は私にとっても非常に興味深く、日本人の聴衆も外国人の聴衆も、とても喜んでくれた、というフィードバックを後で頂きました。さすがに90分間続けて同通をした後はグッと疲れが出ました。しかしこれが出来たのも、同じスピーカーの、似た講演をこれまでに何度も通訳したから。そうでない会議で90分も同通するのは、やはり至難の業です。
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