「アメリカの保険制度」
様々なアメリカの社会問題をテーマに映画を作っているマイケル・ムーア監督の最新作が話題になっていますが、今回のテーマは医療と保険の制度です。日本では誰もが保険に加入していて、病院へ行けば点数制度で請求を受け、一定の金額を病院に支払います。もちろん高額医療費など複雑な計算をする部分もありますが、日常の通院に関しては基本的に、簡素化された計算をすることが可能です。
しかしアメリカでは国民の全員が保険に入っているわけではありません。保険に加入するかしないか、またどのような保険に加入するかの選択の自由を尊重するのがアメリカ。従って、その選択の自由を奪い取られた囚人は、100%強制的に保険に加入しています。私の場合は大学が契約している保険会社に入っています(写真がそれを証明するカード。これを病院で見せなければいけません)。しかし歯科に罹った場合は保険の対象とならなかったり、眼科についても対象とならないなど、制限が掛かっています。同じ保険会社を利用している友人は、数年前に調節した眼鏡の度数が合わないのだけど、大学の保険では眼科に罹っても全額支払いになってしまうので、度の弱い眼鏡をそのまま使用している人もいます。
少しでも高額な医療処置を受ける場合には、事前に保険会社に確認をする必要もあります。例えばある友人はスキーをしていて肩の腱を部分的に切ってしまいました。肩を動かすことは出来るのですが、物を投げたり、重いものを持ち上げるのには支障があるため、病院で手術を受けたほうがよい、と伝えられたそうです。その時、すぐに「それでは手術をお願いします」と言う代わりに、彼は自分の保険会社に電話をして状況を説明し、書類審査を受けて保険が適用されることを確認しなければなりませんでした。
多くの場合は罹り付け医が指定されているので、日本のように患者が自由に好きな病院へ行けるわけではありません。保険の契約内容によっては、指定の病院に行かないと保険が適用されないことがあります。私の場合は自分の大学病院が指定ですので、例えばボストンでの休暇中に調子を崩しても、現地の内科医で予約を取って診てもらう事はできません(全額払えば別ですが)。もちろん救急患者としてERに向かえば、保険の適用となることもあります。しかし、これも事後に保険会社と交渉しなければなりません。
私は2月に胆嚢の摘出手術を受けました。術前に保険会社と話をして、適用範囲を確認しておけばよかったのですが、そこまで気が回らず、今になって保険会社との交渉をしています。もう手術から6ヶ月経つのですが、1円(1ドル)も払っていない状況です。というのも、保険会社の一次審査では「既往症のため保険の適用外」という結果が出て、私の元に全額の請求書が届きました。その後、様々な資料を提出しているのですが、その結果はまだ出ていません。知り合いの話では、「既往症のため保険の適用外」というのは良くある理由付けだそうで、保険の適用を求める患者と、それを拒む保険会社の間での裁判も数多くあるとか。
建国の当時、アメリカにおいて医療は「富裕層のための特典サービス」のような位置づけをされていました。それが20世紀に入って、医療サービスを受けることが人として当然の権利、とみなされるようになりました。しかし保険制度は過去の考えを踏襲したままであり、約16%のアメリカ人が保険に加入していません。多くのアメリカ人にとって大きな問題です。
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