INTERPRETATION

「 菜食主義 」

木内 裕也

Written from the mitten

日本でも「菜食主義」という言葉を耳にすることがありますが、アメリカではvegetarianやveganという言葉を非常によく耳にします。一般的に前者は肉類を食べない人々を指し、後者は乳製品や魚類なども一切食べない人々を指すようです。しかし確実な定義は見つからず、菜食主義者の中でも、色々なタイプに別れるそうです。アメリカの国民の1割がvegetarianで、1%がveganという統計もあります。私は約1週間に渡って、友人の家に泊まっていたのですが、その友人の妹が最近、vegetarianからveganになった人でした。今回は、そんな彼女の様子を見て学んだことをお伝えします。

 数年前から彼女は肉類を食べていませんでしたが、チーズや牛乳、ヨーグルトなどの乳製品、魚介類などは口にしていました。しかしveganとなると、これらの食べ物は一切口にしません。家族の中でそういった食事制限をしているのは一人だけなので、両親や私とは全く別のメニューを作っています。冷蔵庫の中には普通の牛乳と豆乳、冷凍庫の中には冷凍ハンバーグと冷凍のベジタリアン用ハンバーグという風に、通常食の代替食が入っていました。

 アメリカではこの様な食事制限をする人が多いため、日本で想像するほどvegan用の食材を購入するのは難しくありません。大豆を使ったチーズ、一切の肉類を使用していないホットドッグなど、「肉を使わなくても、こんなに見かけも味も変わらないものが作れるのか」と驚くほどです。写真の彼女が手にしているのは、vegan用ハンバーグとアイスクリームです。

 彼女がこの様な食生活になったのは、動物愛護に興味があったからとか。食用に飼育されている動物が酷い扱いを受けている、ということを学び、「肉を食べることは、動物虐待に加担していることと同然である」という論理からveganという選択をしたそうです。もちろん、この様な意見に対して、「肉を食べなくすることは、動物虐待の根本的な問題を解決しない」という反論も聞こえてきます。この点を深く考えて見ると、アメリカ社会の価値観を非常によく反映している社会問題であるように感じられます。

 一般的にアメリカ社会とはRationality(合理性)を追求します。これはGeorge Ritzerという人の言葉ではMcDonalization(マクドナルド化)とも表現されます。マクドナルドに行けば、どこであっても同じサービスと同じメニューが提供されます。また非常に効率のよい形でこれらのサービスは提供されます。しかし同時に、レストランでありながらお客さんがカウンターからテーブルまで食事を運び(時には自分で飲み物を注ぎ)、注文は「3番を1つください」と言うように機械的に処理されます。このようなIrrationality of Rationality(合理性の非合理性)が存在するのもマクドナルド化した社会です。これはTaylorism(機械的管理法)やFordism(フォード方式)に見られたように、効率のよい大量生産を求める資本主義に根ざしたアメリカに非常に特徴的な風潮です。その結果、より多くのミルクを生産する乳牛を育てるための餌が開発され、狭い所に牛や豚がすし詰め状態にされ、動物ではなく物として扱われるようになりました。

 合理性を追求してマニュアルを作り、その結果柔軟性に欠けてしまうのも、日常生活に見られる影響の1つです。これは日本でも頻繁に問題になっている内容です。また高等教育機関では実際にどれだけを学んだかによって卒業が決まるのではなく、「このカテゴリーの授業を3つ、こっちのカテゴリーの授業を2つ」という風に機械的に授業を履修することで卒業要件を満たすのが当たり前になっています。これも合理性を追求した結果、本来の目的から離れた不条理な決まりごとを作ってしまった例といえます。

 この様に考えると、友人がVeganになった要因である食品産業による動物虐待は、1つの産業にとどまるテーマではなく、その真因にはアメリカ社会の価値観があるように感じられました。

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記事を書いた人

木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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